時代劇パロ
お前の見る世界はキレイなモノだけでいい
◇ ◇ ◇
「お侍さん、お助けを」
女の慈悲を乞う声を無視して、慈郎は刀を振る。
バシュ、と嫌な音をたて、血痕が飛び散り、彼の袴を汚した。
「あぁ、せっかく跡部から貰った着物なのに」
落胆から出た慈郎の言葉に、忍足は小さく笑った。
相変わらず非道やな、と。
忍足だって、女、子供関係無しに切り捨てるくせに、と心の中で慈郎はボヤくが、口にはしない。自分と忍足の本意が同じであると知っていたからであった。
暗い夜道を並んで歩き、自分たちの屋敷の近くまで来た所で、城門の前で揺れる提灯の灯りに気づき、足を止める。
「なんや、宍戸まだ起きてたん?」
忍足の言葉に顔をあげた宍戸は、慈郎と忍足を交互に見て、深い溜息を一つ吐き出した。
「少し夜風にあたりたくてな」
「あはは、何それ?…聞きたいこと、それじゃないでしょ」
慈郎は声をたてて笑うが、瞳は笑っていなく、殺気立っていた。
「じゃあ、率直に聞かせて貰うが、最近、浪人やその周辺人物達が惨殺されている、それはお前達なのか?」
真っ直ぐ二人を見つめる視線に、忍足は目をそらすが慈郎は宍戸と視線を交えた。
「だったら、何?」
短く吐き捨てられた言葉が、小さい頃から知っている幼なじみが言った言葉だと信じられず、宍戸は大きく目を見開く。
「…跡部は知ってるのか?」
「知るわけないC、宍戸だって知ってるでしょ、跡部はどんな悪いことした奴でも、殺さない人間だって」
宍戸は暫く黙り、頷いた。
彼らを束ねる、若き美しい当主は、不逞の輩を捕らえても、よっぽどの場合以外は殺そうとはせず、正しい道へ直そうと尽力する男であった。
そんな男だから故、多くの人間が心酔し、仕えてきた。また、宍戸自身、その家中の一人でもあったからこそ、この二人の凶行がわからないのである。誰よりも跡部に心酔している彼らが、何故。
「宍戸、世界はそない綺麗やないんや」
「跡部は綺麗すきるんだC、見た目もそうだけど、心も。…跡部が見るもんはキレイなもんだけでいい」
ああ、そうか、と慈郎の言葉に宍戸は漸く納得した。跡部に心酔すぎるが故、彼を傷つけるモノ全てが邪魔なのだ、と。
「…跡部に言わんでくれへん?」
忍足は俯き、ボソボソと言葉を繋ぐ。
「もし、言うって言ったらどうするつもりだよ」
「そのときは、幼なじみでも切り捨てるC」
カチャリと音をたて、慈郎の刀が宍戸の首筋にあてがわれる。嫌な緊張感が漂っていて、忍足は生唾を飲み込んだ。
「…言わねぇよ、俺も、跡部が好きだからな」
宍戸はふっと笑う。
「激ダサだけどよ、俺もお前らと同じ穴のむじな、なんだよな」
だけど、あまり無理するなよ、と手を振り、屋敷に戻る宍戸の姿に慈郎は呟いた。
「俺もお前も宍戸も、いい死に方しないかもね」
「…その時はそん時や」
宍戸に続き、屋敷に入る二人の姿を満月の光が静かに照らしていた。