南千
「南には一生わからないだろうね」
諦めたように笑う友人の顔を、俺は初めて知った。
狡い人
「お前、―――また、女の所」
南が呆れたように言うと千石はわざとらしく肩をすぼめ、傷付いた動作をとった。
「ちょっと南くん。また――って、甲斐性なしみたいに言わないでよ」
あはは、と声をたてて千石は笑ったが、その瞳は笑ってない。付き合いが長いと、嫌でもわかってしまう。
(―――友達、だからな)
南はハァと一息吐き、千石の前にあるパイプ椅子に腰を下ろす。
「――なんか、あったか?」
南の言葉に千石は、パッと顔上げた。けれど、その顔は、何故か今にも泣きそうな顔をしていて、南はたじろぐ。
「――別にいいよ、そこまで仲良くないじゃん。俺たち」
吐き捨てられるように言われた千石の言葉に多少なりとも傷付く。
これでも同じ部活の仲間として、友人として思っていたのを全て批判されたような気分になる。
(そりゃあ、遊びに行くとかそういう仲間じゃないけどさ)
「――ああ、メンゴ。今のは、ただの八つ当たり」
「――――じゃあ、」
相談してくれてもいいじゃないか、そう南が言葉を零す前に、千石が言葉を被せた。
「――でも、誰かに相談出来る問題じゃないんだよね。あ、南のこと信用してないとかじゃないから」
「…そう、なのか?」
南は、ほっとしたように表情を緩めた。いつも明るい彼にも悩みあるのか、なんて呑気なことを考える。
「まあ、なんかあったら相談しろよ」
ぽん、と小さい子にするように千石の髪をくしゃくしゃ撫でる。
「――――ッ、」
「…友達、なんだからさ」
「…やっぱ、南はタチが悪い」
蚊が鳴くような音量だった。最後まで聞き取れず、聞き返すと、千石は何時もの明るい笑顔を作り、ぽんと南の肩を押す。
「俺に構ってないで、廊下で待ってる可愛い彼女の所に行ってあげなよ。…地味な南くんに勿体無いくらいの女の子なのにさ」
「なんだよ、それ」
照れたように笑う彼の顔を、千石は切ないような苦しいような笑顔で見つめていた。
「南には一生わからないだろうね」
「―――――え、」
聞き返そうとした瞬間、今度は強く肩を押された。
「ほら、行きなって」
「―――千石、」
なんて顔、してんだよ。南はそう言いかけて、止めた。それ以上、踏み込んではいけない気がした。
「――千石、またな」
「……う、ん」
南が彼女と外を歩く姿を千石は、ぼんやり見つめる。
(仲良くしちゃってさ、本当、妬ける)
片思いなんて柄じゃないのに、
(約、三年かぁ…、)
「でも、嫌いになれないんだよなあ。」
―――、好きだよ。
一生、告げることのな思いを千石は切なげに呟いた。
end
初、南千。