今まで、本気で恋したことなんてなかったんだ
君との恋のはじめかた
跡部クンに合わせて考えてたデートプランは、今の所全敗中で、二人の間に気まずい沈黙が流れていた。
ああ、どうしよう、その言葉が、頭に浮かんでは消える。
目の前の恋人は表情を俯いたまま、俺と目線も合わせてくれなくて、
二人の間に流れる沈黙がむず痒い。
「―――ねえ、」
先に口を開いたのは、俺の方だった。俺の言葉に――彼、跡部クンは身体に電流が走ったようにびくりと動く。
「――俺とのデート、つまらなかった、よね?」
「…え、いや、そうじゃのえよ」
跡部くんは歯切れの悪い言い方をして、視線を逸らす。その、歯切れの悪い言い方が更に俺を不安にさせる。
「…そ、そう?」
ある程度、恋愛経験を積み重ねてきた筈なのに、どうすればいいか解らない。黙っているのも気まずくて、目の前の珈琲飲み干す。
(やっぱり、苦いや)
「――お前とのデートは楽しい、ただ」
「ただ…?」
ごくり、自分の唾を飲み込む音が聞こえた。好きなコの言動でこんなに緊張するもんなんだ。
「―――無理、してないか?」
「――え、」
夕日に照らされた跡部くんの笑顔は、切ないような、困ったような笑顔。
(――でも、綺麗だ)
その笑顔は、今まで出会ったどんな人よりも綺麗で、愛おしくて。
「――お前、俺とのデート、無理してる」
眉を下げ困った表情のままの跡部くんは、少しだけ自嘲的に笑って、残りの珈琲を啜る。
「珈琲って柄じゃねえじゃん」
「―――そんなこと、…ごめん」
素直に謝ると跡部くんは、満足そうに頷いて、ウェイターの女の子を呼んだ。
「―――え?跡部くん」
「なに、グズグズしてんだよ、まだ時間あるだろ」
「じ、時間はあるけど、でも、何処に」
何処に行こうとしてるの?と、口が開きかけた瞬間、跡部くんの右手が俺の左手に触れた。
「――――観覧車、」
「…え、」
俺にしか聞こえない音量で跡部くんは言う。
「夢、なんだろ?――恋人と乗る観覧車。…俺様が第一号になってやるよ」
「―――あ、」
いつか跡部くんに話した子供ぽっい夢。
“観覧車の頂上でキスした恋人たちは永遠に幸せでいれる”―――、何かの映画の受け売りだったけど、子供の頃から今まで、本気で信じてた。
(跡部くん、覚えててくれたんだ)
ただ、それだけの言葉なのに、堪らなく嬉しい。
ああ、どうしよ。ニヤニヤが止まらない。
「お前は、お前らしい方がいい―――変に大人ぶるな」
一拍の間があった後、跡部君が顔を真っ赤にして呟いた。
「俺はそのままのお前に恋したんだ」
ああ、駄目だ。
幸せすぎて泣けてくる。
end
たまには甘く!