Clap
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にょたパロ
越前が死んで、二年。
アタシの心は空っぽだ。
【I am You 】
越前と過ごした思い出の公園。此処で、ぼんやり過ごすのがアタシの日課。
「―――っ!」
テニスをしているカップルを見て、涙が込み上げる。どうして、独りにしたの。アタシにはリョーマが必要なのに。
柔らかい黒髪に触れたい。拗ねた顔が見たい。
――まだまだ、だねって
言って欲しい。
あたしはまだ、あんたに
気持ちを伝えてない。
「――お姉さん。テニス、出来る?」
いつの間にか、目の前には中学生くらいの男の子が立っていた。
「――悪いな、テニス出来ないんだ」
「―――嘘だね。俺、お姉さんのこと見たことあるよ。お姉さん、跡部景子でしょ」
お兄ちゃんのアルバムで見たことあるし、と少年は言う。
「もう―――、したくないんだ。テニス」
「―――ふぅん。お姉さん、俺に負けるの怖いんだ」
嘲笑される響きにカチンときた。帽子を深くかぶって、顔は見えないけれど、なんとなく想像出来た。
「―――チッ、仕方ないな。一試合だけよ。」
のそりと立ち上がり、ラケットを受け取る。久々に持ったそれは重かった。
◇ ◇ ◇
「―――へぇ、なかなかやるじゃん。お姉さん!もう、身体動かないかと思った」
「アーン、当たり前だろ。テメェ、俺様を誰だと思ってる」
あれから何時間経過しただろう。正確に言ったら、まだ一時間も経過してないかもしれない。けれど、私にはその時間は永遠に続くような、そんな気がした。
「―――ほら、あれ見せてよ。破滅へのタンゴだっけ?」
「バーカ。破滅への輪舞曲だよ」
―――あ。アタシ、今笑ってる。心の底から。
越前が死んでから、笑うことなかったのに。
今、テニスが楽しくて、楽しくて仕方なくて、笑ってる。
「ねえ、跡部さん。覚えてる?―――はじめて一緒に試合した日のこと」
目の前の少年が不意にそう漏らした。
「――あの日のあの時間は永遠だと思ってた。
まあ。当然、俺が勝ったけど」
少年は体制をかえ、打った。
―――ドライブBを
風がふわりと吹き、少年の帽子を飛ばす。
「まだまだだね、跡部さん」
あれほど会いたくて、仕方がない笑顔が其処にはあって、視界が曇る。
「泣かないでよ。アンタの泣き顔、不細工なんだから」
「―――不細工、じゃない」
「拗ねる顔も変わってないないね」
抱き締められて、胸が苦しくて、心臓が痛いくらい、高鳴る。
端からみたら中学生に抱きしめられて、顔を真っ赤にしているアタシは相当、変だろう。
「――覚えといて。俺はアンタの中で生きてるって」
「…えちぜ、ん?」
「…俺はアンタと一緒に歩くことは出来ない。けど、
―――きっと出逢う運命の人と幸せになって」
「嫌だ!あたしの運命の人はお前だ。置いてくな!あたしは、あたしはっ――」
「――――愛してるよ、ケイコ」
はじめてだ。初めて愛してる、なんて。今まで、どんなにアタシがお願いしても言ってくれなかったのに。
「アンタはまだ上に行けるよ。 」
――――これが、俺の最期の我が儘。
越前は最後に触れるだけのキスをして、光の粒子なって消えた。
後に残ったは、胸に染み渡るアイツの涙と、温かいぬくもりだった。