ぱちり。
眼を開くと、ずい分憔悴した様子の三郎と眼が合った。背中にはフローリングの感触。三郎はずっと雷蔵を見下ろしていたらしい。

「……あれ、ぼく……」

「ら、雷蔵、雷蔵か?俺のこと分かるか?」

「え?あ、さぶ……ろう」

答えた瞬間、ぎゅうと抱きしめられた。
よかった、と呟く三郎に、雷蔵はわけが分からず眼を白黒させる。なんで。だって、雷蔵を人型にするには精液がなくてはいけないのに。抱きしめられたままよく見ると、雷蔵の首や胸に白く濁ったものがべっとりとついていた。雷蔵を抱きしめたままの三郎も、よくは見えないが、局部を露出させたままというまぬけな格好をしているらしい。

どうして、と思ったがそれより先に言わなければいけない言葉を思い出して、雷蔵は三郎に抱きしめられたままあわあわと座り直した。

「あ、あの、三郎の大事なものを捨ててしまってごめんなさい、僕あの、」

「もういい」

言い訳しようとした口を柔らかいもので塞がれ、雷蔵は驚いて固まった。いつも雷蔵から仕掛けるような、舌を絡ませる激しいものではない。ちゅっと音が立つような、柔らかいキスだった。

「……三郎?」

そのまま、三郎の唇は雷蔵の首を伝い、たどり着いた鎖骨を甘く食んだ。くすぐったさと微かに湧き上がる官能に雷蔵の体がびくつく。

「あ、あの、さぶ、」

三郎の広い手のひらがつつ、と伝って、雷蔵の乳首をきゅっとつまんだ。そのまま指先でくりくりといじられ、腰に甘い電流が走る。雷蔵の性器が素直にぴくりと反応してしまい、雷蔵は真っ赤になった。ちゃんと謝りたいのに自身の素直な体が恨めしい。

「あ、あのっ」

鎖骨に軽く歯を立てたあと、三郎はそのまま雷蔵の乳首に吸いついた。乳輪ごと口に含み、乳頭を舌でしつこく転がす。たまに歯を立てられればもうたまらなかった。しかも、反対の手もつねったり潰したりと刺激を止めない。

「や、ま、待って、三郎待って、」

雷蔵の懇願など三郎はちっとも聞いてくれなかった。つんっと乳首を引っぱられ、れろれろと固くなった乳首を転がされ、雷蔵はひんひんと甘く喉を鳴らしながら腰を捩らせる。

なんで、なんで。三郎は雷蔵の唇を軽くついばんだだけだ。唾液は飲んでいない。なのに、なんで。

雷蔵の性器はすっかり勃ち上がり、すでに先走りを漏らしていた。感じやすいのもあるし、連日の性交ですっかり慣らされていたのもある。といっても三郎はあまり雷蔵の体に触れないので、雷蔵が自らしたものだ。しかし、普段自分でするよりも何倍も気持ちいい刺激に雷蔵は陶然と眼を潤ませる。
足はいつの間にか崩れ、抑制するための手は三郎の背中に回っていた。勃ち上がった自身が苦しくて、雷蔵は三郎の背中に回した手を自分の性器に添えようと手を伸ばす。

「だめ」

しかし、それは寸前で止められた。やだ、やだ、おちんぽ触りたい、とむずがる雷蔵の性器に、三郎の手が絡む。

「俺がしてあげる」

上下に擦り上げられ、雷蔵は驚いて息を飲んだ。普段、三郎はそんなことしない。変だ。すごく変だ。しかし、三郎の頭が沈み雷蔵のそれが口に含まれると、そんなことは考えていられなくなった。
じゅぷ、ぢゅ、じゅるるっと卑猥な音が耳を犯す。すでに先走りまで漏らしていたそれを深く含まれ、雷蔵はあああっ悲鳴を上げて背をのけぞらせた。三郎の舌が反り返った屹立の裏筋を舐め、亀頭をくわえ込み、鈴口に唾液を塗りつけるように動く。

「ひ、あぁあッ、あ、先っぽ、くりくりしちゃ、や、だめぇ……っ」

鈴口を抉られると、脳天から腰まで痛みに似た快感が走った。三郎の背に回っていた両手はいつの間にか後ろ手に床につかれ、がくがくと震えている。

「あ、さぶろ、おねがい、やめて、や……ぁあ、っでひゃう、おちんぽでひゃうから、」

三郎の唾液や先走りでぬるぬるの竿を扱かれ、鈴口をしつこくなぶられ、太ももがぶるぶる痙攣した。
もう、がまんの限界だった。
じゅぱ、れるれる、ぢぅうううっ
音を立てて屹立を舐めしゃぶり、睾丸を手のひらで転がす。雷蔵の他に男を抱いたことなどないはずなのに、毎夜のように雷蔵にされていたせいか、三郎の口淫は巧みだった。

「……っっ、あ、も、でるぅう……ッ!」

ぢゅうっと先端を強く吸われ、雷蔵は喉を反らし口端から涎を垂らしながら、三郎の口の中で達してしまった。

「……っは、あ、さぶろ……」

「………」

三郎は何も言ってくれない。
なんだろうこれは。なんなんだろう。雷蔵が射精のショックで呆然としている間に、三郎は雷蔵を押し倒し、腰をつかんでくるりと裏返しにした。

「え」

腰を抱えられ、三郎に尻を突き出す形にされる。ぬるり。同時に後ろの孔に生温かいものが垂らされた。

「や、うそ」

さっき雷蔵が三郎の口に出した、精液、だ。

「や、やだ、おねがいやめて、僕自分でするっ!自分でできるから……っ!」

かぁああっと雷蔵は耳まで真っ赤になった。三郎の舌が皺を伸ばすように這い、入り口でぐちゅぐちゅと音を立てる。恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしいっ。

やだ、やだ、と言って雷蔵が暴れると、雷蔵が本気で嫌がっているのが分かったのか、三郎の舌がぴたっと止まった。

「……いや?」

必死にこくこくと頷く。

「……どうして?」

一瞬三郎の声が低くなった。三郎に尻を突き出した格好のままでいるのも恥ずかしくて、雷蔵は震えるか細い声で恥ずかしい、と答える。ん?と三郎が背後で不思議そうな声を漏らした。

「雷蔵、自分でお尻の孔に指をつっこむのはよくても、俺にされるのは恥ずかしいの?」

雷蔵は再度必死に頭を上下させた。当たり前じゃないか。自分でするならともかく、そんなところを三郎に舐められるなんて、恥ずかしすぎて顔から火が出てしまう。
雷蔵は羞恥のあまり、腰を上げたままの格好でもじもじと尻を揺らした。入り切らなかった雷蔵の精液が蕾から溢れ出し、つーっといやらしく伝い落ちる。

「雷蔵、かわいい……」

三郎の手がぺたりと尻たぶにかかり、両の親指がぬちゅっと入り込んだ。そのまま左右に広げ、歪んだ孔にまた三郎の舌が入り込む。
孔を広げられる感覚と、入り口を舐め回される感触に、雷蔵はやぁああ、と尻を振り立てて嫌がった。親指が敏感な粘膜をぬちゅぬちゅと刺激し、舌がずぷぷっと中に入り込んでくにくにと動く。

「ひぁあ!ッや、さぶろぉっ、ぼくおちんぽなめるっ!らいぞのおしりなんかいおかしてもいいっ!だから、やめ、て、や、……っひぁあ!あっ、しょこやらぁあーっ!」

雷蔵はぐずぐずと泣いて三郎に哀願した。三郎の舌が襞をかき回し、余りの快感に肘が崩れ、顔を床に押しつけることになる。つぷっと人差し指と中指が入ってきて前立腺をこねられ始めると、膝までがくがくと震え出した。
雷蔵の大好きな感覚だ。いつもなら自分で快楽を調整できる。しかし三郎は容赦なかった。
舌と親指は離れたが、三郎の指は舌よりもっと奥まで入り込み、傍若無人に雷蔵の中を探る。前立腺を押し潰され、雷蔵の赤く腫れた屹立がびくんっと跳ねた。とろとろとひっきりなしに垂れる汁がフローリングに水たまりを作る。

「そんなに舐められるの嫌かぁ。じゃあ今日からちょっとずつ慣れて、雷蔵から舐めてって言えるように頑張ろうね」

今日、から。
よかった、すぐに捨てられるようなことはないらしい。やっぱりフィギュアを返したことがよかったのだ。雷蔵は涙と鼻水と涎でぐしゃぐしゃの顔のまま、ほっと息を吐いた。
三郎が何を考えているのかは全く分からないけれど、許してもらえたのだろう、と、思う。
恥ずかしくて恥ずかしくて泣いてしまいたいくらいだけど、これで三郎が許してくれるならいいと思った。

三郎は今まで雷蔵が嫌だと言うことはしなかった。雷蔵が三郎の言うことを聞かずに押し倒しても、雷蔵の頬一つ張ったことがなかった。
三郎にとっては最後のはっきりした拒絶だったろう、他の人のところに行けというのにも、雷蔵はこうして聞かないでいる。
これは三郎なりの罰なのかと思った。雷蔵には酷く酷く甘美な罰だが、三郎は雷蔵の嫌がることをしたいのかもしれない。

それでも、そうだとしても。

雷蔵の中を暴れていた指が引き抜かれ、三郎が上着を脱ぎ捨てた。勃ち上がったものが雷蔵の尻に押しつけられ、雷蔵はごくりと息を飲む。
普段は雷蔵が三郎に跨ってすることが多い。後ろからは初めてだったし不安だったが、雷蔵は何も言わなかった。なにより、後孔がもう待ちきれないとばかりに疼いていた。

「雷蔵、すごい。雷蔵のおしりひくひくして、すごく物欲しそうだよ。おちんぽ好き?」

「ふぅ……っ、ん、すきぃ」

「入れてほしい?」

ゆるゆると熱いそれにつつかれて、雷蔵は焦げるような渇きに腰を揺すってねだった。雷蔵の性器がぷるぷると揺れて、透明な汁が辺りに飛ぶ。

「しゃ、ぶろ、の、さぶろぅのおちんぽが、ほし……っ」

好きだから、三郎が好きだから、三郎がいい。

「雷蔵は本当にやらしいなぁ」

ぐりっと入り口が広がったと思った瞬間、ずぷんっと三郎が奥まで入ってきた。

「ああ……っ!!ひぃ……、あっ、そんな、急におく……っ!あああぅ……っ!」

柔らかく柔らかく三郎にほぐされたそこは、雷蔵も驚くくらいやすやすと三郎を飲み込んだ。ごちゅんっと腸壁に勢いよく性器の先端がぶち当たり、走った快感に雷蔵はひゃうっと鳴いて背筋を仰け反らせる。ぶるぶる体が震えるのと同時に、ぶぴゅっと精液が吹き出した。

「あは、雷蔵トコロテーン」

ぜひぜひと自分の荒い息づかいしか聞こえなかった。弛緩した雷蔵の腰を抱え上げ、三郎が容赦なく腰を打ちつけてくる。

「?!!ひいっ!……っんはああ!ぁん……!やだ、しゃぶろ、ひ、ぁああんっ」

少し引き抜いて、固い切っ先が雷蔵のしこりをピンポイントで潰した。達したばかりの体には拷問のような刺激に、脳の神経が焼き切れそうになる。
こんな三郎は知らない、三郎はいつももっと消極的で、悔しそうで、恥ずかしそうで、とてもかわいい。
今の三郎はいじわるで激しくて、獣みたいだ。

不意に、背中に優しく口づけされた。
うなじを柔らかく噛み、気持ちいい?と聞いてくる。
揺さぶられる雷蔵はとても答えられなかった。でも、優しい仕草に胸が熱くなってたまらなくなる。

ああ、好き、好き、三郎が好き。

でも、こんな気持ちを持っちゃいけないんだ。この気持ちがばれたら――。



(捨てられちゃう)



ぎゅううっと、三郎が雷蔵の体を抱きしめて、そのまま熱いものが叩きつけられた。雷蔵も三郎に緩く性器を揉まれ、つられるように三度目を吐き出す。

罰でもいい。嫌われててもいい。この罰が終わるまで側にいられるならそれでいい。ただ、この気持ちだけはバレないように。
ちゅ、と頬にまた優しく口づけを落とされて、雷蔵は嬉しくて少しだけ泣いた。





11.3.30
11.4.9改変
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