砂糖菓子は笑えない

「ねえ、トキヤ」
「何ですか?」

 パートナーである名前の問いにトキヤは眉を寄せる。そうしたら、名前は「ううん、気のせいみたい」と返してきたからそれ以上をトキヤは追求しなかった。
 その後も二人で話し合っていたら、ふと名前の視線が窓に向かい眼を細めた。

「春歌ちゃんと音也くん、だ」

 ぽつりとそう声をもらす。ずっと五線譜に向けていた視線を上げ、彼女を見れば酷く伝わってきた。―――彼女の心境が。叶わない願いに渇望する少女の気持ちが。突き刺すように、滲みこむように、伝わる。
 窓の先の目映さに眼を細める名前にトキヤは果たしてなにを抱くのだろうか? 憐れみ。愚かさ。無関心。いや、この三つの内どれでもない。抱いたのはただの―――――『恋心』だ。
 かける言葉一つ思いつかずトキヤは無言のままでいたら名前が蚊が鳴くような声で言葉を紡ぐ。

「もし、ここが御伽噺だったら私はどこにいるだろうね」

 ―――ねえ、トキヤは分かる?
 淋しげに笑う彼女にトキヤはまだ何も言えない。名前が言いたいことと意図は分かる。しっかりと理解している。だが、何も言えない。
 もし、恋心を自覚する前のトキヤならば、何を言っているのですかっと厳しい一言ぐらいは言えただろう。しかし、現在は違う。トキヤは自覚しているのだ。

「って、急にこんなことを言い出してごめん」

 名前が話を打ち切るように空元気の笑顔と明るい声を出した。手をひらひらとさせ、「あの二人、仲いいよね〜」とか「次のテスト、どんなの持ってくるのかな」と笑みを浮かべながら五線譜の眺めている。
 眼に映るその姿はやけに、淋しげだった。トキヤは自分の不甲斐なさに下唇を噛んだ。

 お姫様は王子様と結ばれて御伽噺はお終いお終い。でも、その後の“二人以外”の登場人物はどうなる? その答えは、彼も彼女も誰も知らない。


君がお姫さまじゃないように僕も王子さまじゃない。


 夜途 より




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