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女の子も恋をすると色気づく。と、昔に小説かドラマかどちらだったか分からないがそんなフレーズを覚えていた。
耳にした時はふーんと特に関心を抱くお年頃じゃなかったから、テキトーに聞き流した。でも今、目の前にいる“女の子”が恋をして色気づいてきて納得する。
ーーーホントに色気づきやがったって。
楽しげに、今まであったことを話す女を見て、そう思った。
「高尾のアドバイス通りに頑張って、無事サークルの打ち上げの幹事やることに決定しました! そして、今度打ち上げの相談で2人で会う約束も!」
コロコロと笑う反動でイヤリングがシャラシャラと揺れた。そのイヤリングは、みょうじのお気に入りのアクセサリーの1つで、銀色のシャラシャラしているのがベースで小さいピンクの宝石みたいのが付いてる。まだピアスホールは開けてないが、近々開ける予定だとか。ピアスに変える理由は確か、イヤリングよりかわいくて種類が多いからって。聞いたときはなんだそりゃって正直思った。
もうじき穴が開いてしまう耳のことを思いながら恋に恋する女の子の話に相づちを打つ。
「えー、じゃあ急接近じゃん」
「まあね。ほぼ他人に近い関係から知り合い以上にステップアップですよ」
「頑張った頑張った。で、ホントになんでも食べてよろしいのですか?」
「よろしいぞよろしいぞ、高尾〜。なんだって、高尾のアドバイスのお陰でもあるから」
俺のお陰、か。奢ってもらう内の1つでもあるコーラをズズズッと啜る。目の前で、和風パスタを器用に食べるみょうじを眺めながら思う。
女もだが、女の子が恋をしてからの色気の変化は激しい。自分を磨く術が自然と分かってしまうシステムが組み込まれているのかと圧巻するほどに。
お礼にと昼に誘われたこの店だって、マジバじゃなくて女子っぽくオシャレなイタリアンだ。ワンコインプラス100円でお好きなパスタにサラダと飲み物付きとスッゲェお得な店。バーガーセット頼むより遥かに安くて、良い。
昔はって初恋を拗らせる前―――ほんの3ヶ月かそこら前は、こんな店に誘うことなんてなかった。駅近くのマジバでケチ臭く100円か1品だけで済まそうとした女の子が恋1つで500円まで昇格したんだぜ。やっぱ、恋って偉大だと再認識した。
恋によってもたらされる変化は激しい。真っ逆さまな急直下。恋は盲目の通りにズンズン沈んでいくだけ。
女の子は、当たり前のように恋をすると変わる。
好きな人に振り向いて欲しいから。好きな人に意識して欲しいから。理由は“好きな人”。他の人間なんて入る隙間もない。
そのもどかしさを、恋する女の子は知らない。
なんか俺ってバカだよな、とため息を吐いたらみょうじの爪が視界に映り込んだ。
「その爪………」
「あ、気づいた。えへへ、ネイルデビューしちゃった。一緒についていってもらった友達がね、この色が良いよって」
キレイでしょ、と肌色からミントカラーとなってしまった爪を見せられた。爪の先なんて尖って、チカチカ光るのやら色々でデコレーションされた女の子らしい爪へ変わっている。
これじゃあ、生活も不便だって思うけどなあ。思っても、俺には口出せない。だって俺が、“そうさせるように”したから。
“どうすれば良いって、言われてもなー。んー、とりあえずその好きな人の好みの女子になるように磨いてみたら?”
俺が言ったことは当たり障りない極一般的なアドバイスだろう。後から誰が言っていてもおかしくないし、みょうじ自身が気づいていたっておかしくない。そんな当たり前のことを言ったまで。
だけど、俺という人間も失くなった後からその重要性に気づいてしまうバカ野郎で、別の野郎の好みの女の子になりつつあるみょうじを見て「前の方が好きだったな」とあん時あんなこと言わなきゃよかった後悔している。
出会った高校から恋に落ちていない3ヶ月前までのみょうじ。シンプルと言うのか、オシャレはするけど今よりはこう色気をつけていないみょうじが好きだった、と恋をして色気づく女の子を見て今さらながらに知った。
くすぶる感情は、昇華できず胸の奥でいつもヂリヂリと焼き焦げている。
「キレイ、だな」
好きな男のために、とそいつの好みの女子にならうと可愛らしいレースのリボンを巻いては着飾る。俺が好きだった女の子の姿をリボンで覆い尽くしていくんだ。
シャラシャラとしたイヤリング、洒落たイタリアンレストラン。ミントの爪にレースのリボン、いっそ全部奪って捨ててしまいたくなる。