「泣き虫だなあ」と彼女は笑った

(公式主ウキョウで、夢主は『運命をあげるよ』のヒロインです)


 最近、なぜか異様にあの子から避けられている気がする。いや、実際避けられてる。だって、昨日デートに誘ったのに断って街でシシシンと買い物してからっ! ………あの時はオリオンと一緒にいて、オリオンがなんとも言えない生暖かい目で「ぼく、あっちのお店行きたいなぁ〜」と哀しい気配りが胸に突き刺さった。
 つい、1週間ぐらい前だろうか。ちょっとだけ長期の仕事から帰ってきたから、せっかくなら彼女に会おうと思って、オレと競いあってなんとか主導権を手にして電話したのに「すいません、ウキョウさん。今日って今、こいつ手が離せなくて」と彼女のケータイからトーマの声が聞こえて固まったのをよく覚えている。しかも、どことなくトーマの声は誇らしげだった。
 5日前はイッキと裏路地でこそこそと雑誌を見ながら真剣な面立ちで話していたし、3日前はケントとショッピングモールにいたと情報が。(主にニールの無邪気な親切)
 この1週間、俺はひたすら避けられ避けられて彼女と接触できたのが、昨日の晩に届いた1件のメールだけ。内容は、この時間に冥土の羊に来てほしい、とのこと。この時間とは夕方だ。
 ま、まままままさかっ! 彼女は……いやいやいや、ないない!! むしろあってたまるか!! そりゃあ、あの子の周りにはハイスペックなイケメンらがぞろぞろいて、みんな君に好意を寄せてると来た。で、でも、それを逆手に取ってその………囲うとかっ! 想像した世界はそう、ちょうどこの前にニールやオリオンと一緒に見た大奥の世界だ。あの映画って、以前上映されてた映画で女版大奥みたいで、歴史マニア(予備軍みたいなのに)なったニールは嬉々として借りてきたんだよなあ。って、そんなことはおいといて。とにかく、間男とか囲うとか時代錯誤なことじゃなくて、単純に彼女が俺に知られたらマズイこと他の4人と隠れて行っているってことだ。
 も、もしかして、俺は彼女に愛想をつかされたのだろうか。

「俺はみんなみたいにハイスペックなイケメンじゃなくて、要領悪くて神出鬼没でちょつぴり不気味だった1面もあって世間知らずなところあるし………ううう」

 例に出したら出すほどに、俺と彼らの圧倒的差が明らかとなる。本当に残念なほどに。
 頭を抱えて唸ったり、唸ったり。彼女が指定した時間帯より早くに着いてしまって、まだ中に入るのは勇気と忍びなかったの外で待っていながらずっと悶々とこれから起きることを考えていた。周りの人から見たら俺って、絶対にワケわからないおかしな人だ。
 中に入って早く彼女と話したいと思う。でも、そんな勇気は俺にはなかった。だからずっと、冥土の羊に入れず外でこうなっている。

「二股話? 一旦距離を置こう話? それとも別れ……あああああっ!」
「うわっ、急に叫びだしてどうしたの、ウキョウさん」
「へ? どどどうして、君が冥土の羊に!?」

 最も予想したくない未来を口に出すのが嫌で、叫び声を上げていたら顔見知った姿がそこにあった。
 叫んでいた俺に彼女は慌てた様子に、周囲を見渡しながら「とりあえず中、入ってください」と俺の腕を引っ張った。

「ちょっと、危ないよ」
「いいからいいから。もう準備は済んだからあとは主役のお出でだけだから」
「準備? 主役? お出で? それってなに!?」

 問答無用でぐいぐい前に押し、ついに扉の真ん前まで。さっきから言っていることが理解不明で、頭は疑問符を浮かべている。

「それは、もう少しまで秘密。ほら、目瞑って。扉は開けるから後は自分で入ってよ」
「ちょっと!?」

 意味も分からず、「目を瞑れ」と言われたからとりあえず目を瞑る。そして、扉が開いたのかカランコロンと軽やかな音を確認して、俺は1歩店内に踏み行った。

 ―――パッーン! パッーン! パッーン! パッーン! パッーン!

「えっ、なに!? 爆竹!? 俺死ぬの!?」

 突然、炸裂音が耳を襲い心臓がドンッと飛び出しそうなほどに驚く。まだ、俺命狙われるの!?
 完全にパニックに陥って、あわあわとしていた俺の耳に聞き馴染んだ愛しい声が、

「―――ウキョウ、お誕生日おめでとう!」

 届いた。彼女の声だ。

「………え?」
「お誕生日おめでとうって、言ったんだよ。3月3日はウキョウのお誕生だから」
「うん。せっかくなら、サプライズでみんなでお祝いしたくて」
「―――」
「ほら、泣かないの」

 彼女の言葉と笑顔、冥土の羊のみんなの笑顔。
 今日が3月3日ってことは分かってたけど、すっかりその日が自分の誕生ってことは忘れてた。だって、俺はずっと終わらない8月を過ごしていたから。幾度も幾度も、目の前で俺に笑顔を向ける彼女のために。狂おしいほどに、愛する彼女のために。この、今みたいな平穏な日常を過ごしたいために。
 頬に雫が垂れる。でも俺は精一杯の笑顔で、

「――ありがとう!」

 ああ、俺は生まれきてよかった。永遠に終わらない8月から2人で抜け出して、そしてを今日を過ごせた。
 ―――俺は、幸せだ。

「ウキョウは泣き虫だなあ、本当に」

 彼女は微笑み、俺の手を握って、

「生まれてきてくれて、ありがとう」

 抱き締めた。


 あんたの、幸せな顔をやっと見れて良かったよ。おめでとう、ウキョウさん。


 Happy Birthday ウキョウ



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