目が合った瞬間、ナルトの心臓がドキリと跳ねてそのまま呼吸が止まってしまうような錯覚に陥った。


「……もうちょっとだけ、このままでいて?」


 ビシリ。

 耳に届いた今にも消え入りそうなサクラの声にナルトの体は硬直した。


 そんな表情で、そんな潤んだ瞳で、そんな声で、そんな事!

 
 ナルトは震える指先を持ちあげて、ゴクリと喉を上下させた。バクバクとうるさい心臓の音を聞きながら、ゆるゆるとサクラの背へと腕を回した。
 
 そっと支えるように抱き寄せると、自分の体にかかるサクラの重みがじんわりと増して行くのを感じた。

 自分にその身を預けてくれるサクラが愛しい。サクラにとって自分が心を許せる相手である事が嬉しい。できることなら、唯一の相手になれたらなんて贅沢な考えがチラと浮かんだ。

 静かな夜空の下、サクラと二人。
 温もりを感じながら並んで座っている。
 何も言葉を交わさなくても、同じ場所に二人で居られる事がとても大切に思えた。

「あ」

 しばらく無言の時間を過ごしていたナルトが、広場の街灯に付いている時計を見あげて思わず小さな声を上げた。
 時計は11時50分を指していた。

 ナルトの声に反応して、肩にもたれていたサクラが少しだけ顔を持ちあげる。
 まだトロンとした目で不思議そうにナルトを見上げていた。

「あ、いや。ゴメン。思いだした事があって……」

 サクラが小さく首をかしげるとナルトはサクラの背に回していた手を戻す。ゴソゴソと腰ひもに結びつけてある袋をはずし、中から小さな箱を取り出した。

「これ、サクラちゃんにプレゼント」

 サクラは自分に差し出された手の平の上にある箱を不思議そうに見つめている。
 ナルトがそっと箱のふたを開けた。中には、いくつかの小さな花が寄り添うように咲いていた。まるで彫刻のようなその花は、月の光を浴びてキラキラと小さく光っていた。

「砂に行った時に見つけたんだ。それってば、砂の花って言うんだってさ」
「きれいね」

 サクラが箱を手にとって目を細めるのを見て、ナルトも笑顔になる。

「サクラちゃん、誕生日おめでとう」
「ありがとう」

「あ〜、今日中に渡せて良かった」

 そう言いながらナルトはベンチの背もたれに寄りかかった。なんとなしに空を見上げる。満ちきらない月が浮かぶ夜空には、たくさんの星が瞬いていた。

「来年も一緒に祝えたらいいなぁ」

 まるで星に願うように、思わず呟いた。
 クスリと小さく笑う声がして、ナルトの肩にトスンとサクラの頭が乗った。

「ふふ……気が早いわね」

 ナルトは、サクラを抱き寄せるようにそろそろと手を添えると、愛しい重みと温かさがナルトにもたれかかってきた。

 再び二人は夜の静けさに包まれる。


「……でも」


 静かな空気をサクラの小さな声が揺らした。

「ナルトが隣に居てくれたら……やっぱり、嬉しいだろうなぁ」


 サクラの声は空気を揺らしながら、痺れを伴ってナルトの胸の奥へと届いた。

 それはどういう意味だろうかと、サクラを伺えば、サクラは口を閉ざして目を瞑っている。

 月明かりと街灯の明かりが照らすその頬が、赤いのは酒のせいかそれとも……


 夜風が二人の前髪を揺らしながら通り過ぎた。
 春の始まり、何かが変わりそうな予感がした。


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