立ち上がった途端、ぐらんと景色が揺れた。
 サクラは両足に力をいれ深呼吸をした。

「一緒に行くよ」

 隣でツキヤが立ち上がろうとする気配がした。

「大丈夫ですから」
「でも……」

「一人で行けますから」

 サクラはツキヤを制するようにやんわりと、でもキッパリ言ってゆっくりと出口へ向かった。
 一歩一歩。揺れる視界の中注意深く足を前へと運ぶ。
 

 なんとか廊下に出たサクラは、壁に手をつき目を瞑った。

「本当に大丈夫?」

 いきなり聞こえてきた声に目を開くと、すぐ横にツキヤが立っていた。

「やっぱり心配だから、一緒に行くよ」

 そう言いながら、ツキヤがサクラの腕に触れてくる。
 触れた場所からゾワリとした嫌悪感が這い上がってきて、サクラは思わずその手を振り払った。

 反動でサクラの体がぐらりとバランスを崩す。酔いのせいで力が入らず体を支えられない。

 あぁ、倒れる。そう思った瞬間、ガシリと背後から体を支えられた。
 サクラがゆっくりと頭の上へと視線を向けると、ナルトがホッとしたようにサクラを見ていた。

 ナルトの顔を見た途端、強張っていたサクラの体から力が抜けていく。

「……ナルト」
「危ないってば、サクラちゃん」

 ナルトはゆっくりとサクラを立たせた。

 自分を見た瞬間に、安心したように変わったサクラの表情。サクラに触れようとしていた男に対する態度と明らかに違うサクラの様子に、側に立つ男に対して優越感が湧く。

「後は大丈夫なんで」

 ナルトは視界の端でツキヤを睨みながら言うと、サクラの肩に手を置いて支えるようにして歩き出した。数歩進んだ所で、ナルトはサクラの肩に置いていた手を背中へ移動させた。背後から感じる視線に自分の存在を見せ付けるように、サクラをゆるく抱く。
 すると、サクラもナルトの肩にコテンと額をつけてその身を預けてきた。

 顔を傾ければ、頬に触れる髪の毛だとか、肩から腕から伝わる体温だとか、時折零れる吐息だとか。サクラを感じさせるすべての事柄に反応を示すナルトの心臓。ドキドキと早鐘のような鼓動の音がサクラに伝わってしまうのではないかと思った。

「サクラちゃん大丈夫?」

 それでも、背後の男に悟られないように。
 余裕のあるふりをして外へ向かった。



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