桜の木の下で 2/3
痛いほどの視線に気づいて、メルディが男を見た。 「あ・・・」 「いやっ、そのっ」 女の子の緑の瞳と目が合うと、男は真っ赤になって狼狽している。
「あの・・・もし、よかったら、この猫をおろしてもらえませんか?」 優しい声で、女の子が男に話しかけた。 「オレっちが?」 「はい・・・私じゃ、届かないんです」 男が女の子の方に歩み寄り、桜の木を見上げた。 「頼むのにゃ」 「へ?」 男が赤い瞳を見開いた。 「こ、この猫、しゃべんの?」 「あ、やっぱり!?お兄さんにも聞こえました!?」 お兄さん、だって。 「う、うん」 「私、自分の空耳かなって、思ってたんですけど。よかったぁ」 ほっとして笑う女の子が可愛すぎる。
「ちょっと、持ってて」 男はコンビニの袋とカフェオレをメルディに預けると、 器用に木によじ登り、猫に手を伸ばした。 「ホラ、こい」 「にゃ」 黒猫が男の腕の中にもぐりこむ。 「よっと」 男は黒猫を抱きかかえて、メルディのところへ戻ってきた。 「ありがとうございました」 「いいって、いいって。この猫、アンタの猫?」 「違います」 「違うにゃ」 メルディと猫が同時に答えた。 「お腹減ったにゃ」 「あ・・・そうなの?」 メルディは学校帰りなので、お茶くらいしかもっていない。 男は黒猫をメルディに預け、自分のコンビニの袋を受け取ると中身を取り出した。 イチゴ味と二層になったチョコレートとバニラビーンズの入ったクッキー。 「お前、こんなの食えるか?」 「うん!好きにゃ」 メルディが緑の瞳を丸くしている。 猫と男のやり取りにではなく、男の選んだ品物に。 いつも自分がよく買うお菓子と全く同じだったからだ。
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