鉄竜の災難 1万打フリー ナツガジ 灰猫様
鉄竜の災難
「今から日暮れまでにガジル君に抱きつく! ってのはどう?」
「は…、?」
それは、暇を弄んだ妖精の尻尾の、なんとなくで始まったゲームだった。
「そんなの簡単です! ジュビアが一番乗りっ」
「させねぇぞジュビア! 賞金は俺がいただくぜ!」
「グレイ様っ、これはそのっ、浮気とかではなく!」
「なんの話だ…」
「ガジルに抱きつくとか楽勝…、むしろそのまま抱いてやるよ」
「何を言っている。ガジルの貞操は私がいただく」
「趣旨が変わっているぞ、ラクサス、ミストガン」
「ガジルに抱きつくならリリーはもう反則じゃない」
「オイラも可能性あるよね!」
「あんたじゃ抱きつくって言うよりしがみつくよ」
「ていうかナツは?」
「あれ、そういえば…」
ガジルが必死でギルドのメンバーから逃げている頃、ナツはそんな面白いことが起こっているとも知らず、のんびりと街を歩いてギルドに向かっていた。
「(ガジル今日もギルドにいんのかな)」
ぼんやりとそんなことを考えながら歩いていると、前から必死の形相で走ってくるガジルが。
「あれ、ガジル。おは…、」
“おはよう”と言いかけたナツだったが、ガジルの後ろからこれもまた必死の形相でガジルを追いかけてくるギルドの面々に、思わず固まってしまう。 そのままガジル達はナツに気付くことなく走り去ってしまった。
「なんだ…、?」
「あっ、ナツ!」
「ルーシィ、あれって」
走り去った仲間たちを眺めつつ、少し遅れてやってきたルーシィに尋ねるナツ。
「なんかミラがね、日暮れまでにガジルに抱きつくっていうゲーム始めちゃって…」
「は、?」
「しかも一番最初にガジルに抱きついた人は賞…」
「ガジルを好きにしていいのかっ!」
「え? ちが」
ルーシィが全て言い終わる前に勝手に趣旨を履き違えたナツは、こうしちゃいられないと全速力で走り出した。 あっという間に見えなくなってしまう。
「違うけど…、まぁいっか。ナツが賞金取ったら分けてもらっちゃおっと」
これで家賃が払えると思ったルーシィの表情は、だらしなく緩んでいた。
一方ガジルは。
「リリーどこだよ!! なんでこんなときにいねぇんだよっ!!」
半泣きでリリーを探しながらギルドの面々から逃げていた。
「ガジルぅッ! いい加減観念しやがれ!」
「さぁガジルっ、私の胸へ飛び込んで来い!」
「私の下へ来ればこんな変態共蹴散らしてやるぞ!」
「ダメですよっ、幽鬼の頃からガジル君をずっと守ったきたのはジュビアですから!」
先頭を走るのはラクサス、ミストガン、エルザ、ジュビア。 その後ろには賞金欲しさのグレイやエルフマン達もいるのだが。 それよりも更に後ろから、凄まじい勢いで走ってくるナツがいた。
「ガジルーッ!! 俺が来たからにはもう安心だぞ!!」
「余計不安だアホッ!」
「なんだナツ、来たのか」
「てめぇらばっかにいい思いさせてたまるかよっ」
「まぁいい。勝つのは俺だからな」
あっという間にラクサスの隣まで追いついたナツ。 そんなナツを横目に、ラクサスはバチバチと体に雷を纏った。 ニィっと笑ったラクサスを見たナツはハッとした。
「らくさ、っ」
慌てて止めようと手を伸ばすが届かず、ラクサスはナツの隣から姿を消した。 とほぼ同時に、前からガジルの悲鳴が。
「ギャアッ、てめ、どこから湧いてっ」
「そう騒ぐなよ」
ナツが前を見ると、ラクサスがガジルの腕を掴んで今まさにその腰を引き寄せようとしていた。 それを必死で拒むガジル。 二人とも走りながらよくやるものだ。 などと思っていたら、何時の間にかミストガンまでもガジルの隣を走っていた。
「やぁガジル。ラクサスなど放っておいて私とエドラスで暮らさないか」
にっこり王子スマイルでガジルの手を取りながら言ったミストガン。
「意味わかんねーしお前なんで普通にここにいんだっ、エドラス帰れ!」
「このゲームに勝利し、ガジル、君を手に入れたら帰るよ」
「これそういうゲームじゃねぇだろっ!? てか痛ぇっ、痛ぇって!!」
両サイドのバカ達に体を引っ張られ、ガジルは本気で体が千切れるかと思った。 そんなとき。 ゴォッと風が吹いたかと思えば、ガジルは二人の間から姿を消していた。
「全く、くだらないことにガジルを巻き込むんじゃない」
「リリー! 遅ぇよっ」
「すまない」
リリーの声にラクサス達が上を見上げると、本来の大きさに戻ったリリーが羽を広げて上空に舞っていた。 その腕には姫抱っこされたガジルが。
「リリーてめぇ! 空飛ぶなんて卑怯だぞ! ガジル下ろせ!」
「猫なんざにガジルをやってたまるかよ!」
「リリー命令だ! ガジルを私に渡せ!」
「いくら王子の命令だろうとそれだけは従うわけにはいきません。それにガジルは誰にも渡さない」
「そうか。ならば奪うまでだ」
不意に後ろから声が聞こえて、リリーは反射的に振り返った。 そこには換装して黒羽の鎧を纏ったエルザが。 容赦なく振り下ろされる剣。 避けようとしたリリーの腕からガジルの体が滑り落ちる。
「ガジっ、!」
「ウォーターロック!」
落下するガジルを見て全員が青ざめる中、ジュビアの声が響いた。 空中で水に包まれたガジル。 驚いて開いた口から空気が漏れる。
「ガジル君はいただきました!」
「いや溺れてるって!」
「ガジル殺す気か!?」
「ガジルっ、今助けるっ!」
リリーに斬りかかっていたエルザが空中で器用に方向転換し、その水の球を真っ二つに割った。 ふらりとそのまま落ちそうになったガジルだったが、エルザに抱えられて無事地面に降り立つ。
「ガジル無事かっ、しっかりしろっ」
全身水浸しのガジルはエルザにガクガクと肩を揺すられ、軽く眩暈がした。 終いにはガジルの体を力の限り抱き締め出すエルザ。 胸に顔を押し付けられて息が出来ない上に骨が軋むほど抱き締められて、ガジルは本気で命の危機を感じた。
「おい締めてる! 締めてるって!」
「はっ、すまないガジルっ」
「ぶはぁっ! はぁ、はっ……、し、死ぬかと思った…」
「が、ガジル…」
やっとエルザから開放されて必死に呼吸している姿は、髪が濡れて肌に張り付いていることもあってか、壮絶な色気だ。 その場にいた皆が息を呑む。 ナツは鼻から熱いものが垂れているのをなんとなくわかっていたが、たまらずガジルに飛びかかった。
「ガジルマジやべぇぇっ!!!」
「っ!」
「ナツ! 抜け駆けは赦さねぇぞ!」
「ジュビアのことも忘れないでくださいっ!」
「私はここだぞガジル!」
「貴様らガジルに触れたら刻むぞ!!」
「…お前たち…、いい加減にしないかっ!」
その後もガジル争奪戦は続いたが、なんとか日暮れまで生きて逃げ切ったガジル。 クタクタでギルドに帰ってくると、笑顔のミラジェーンに迎えられ、殺意を覚えた。 しかしそんなガジルを物ともせず、ミラジェーンはにこにこと笑っている。
「無事に逃げ切ったようね」
そう言って楽しそうに笑ったミラジェーンに手を握られ、ガジルの顔が引き攣る。 今日のことでも思い出しているのだろうか。 そこにぞろぞろと帰ってきたガジルの天敵達。
「優勝は私だ」
「はぁっ? エルザガジルのこと締め上げてただけだろ! 最初に抱きついたのは俺だっ」
「お前は寸前で避けられて地面と抱き合っただけだろう? ナツ」
「優勝は間違いなく俺だ。ガジルはもらうぞ」
「何を言っている。お前が優勝なら私も優勝だ。ガジルをいただくのは私だ」
「お前らこそガジル引っ張り合ってただけだろ…」
「なら優勝はジュビアですね」
「いや、それはないから」
「どうでもいいがガジルは連れて帰るぞ」
「リリーいっつもいいとこ取りじゃん! でもお前優勝じゃないからなっ、お前抱き上げたんであって抱きついたわけじゃないもんな!」
「心底どうでもいい…、ガジル! 帰るぞ」
何故か機嫌が悪いリリーに名前を呼ばれ、ガジルはビクッと竦んだ。 そんなガジルに気付いたミラジェーンが可笑しそうに笑う。
「相棒を好きにされて怒ってるんじゃない?」
「そうなのか、?」
「早くご機嫌取ってあげたら?」
「……、おぅ」
そう言ってミラジェーンから離れたガジルは、やや駆け足でリリー に近付いた。 威嚇のためか、また元の大きさに戻っているリリーを見上げ、“ご機嫌取り”のためにガジルは、その大きな体に抱きついた。
「ごめんな、リリー」
ギルドからいろんな悲鳴が上がったのは言うまでもない。
end.
10,000 hit thank you !! 匿名様に捧げます。 リクエストありがとうございます!
大っ変遅くなってしまって申し訳ありません! リリガジ、ラクガジ、ナツガジ、ガジル総受けだったので、もうめぼしいキャラ全員にガジル奪い合ってもらいました。 ありがちなタイトル。 そして勝手にリリー落ち。 ナツとラクサスの影が薄くなった上に全体的にわけわからんことになってしまった(´・_・`)
こんなわけわからんもので良ければ貰ってやってください。
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またまた頂いてしまいました…! 実はこの争奪戦の中に私も入っておりました← 猫に変身出来たらきっと優勝出来ますよね!!ガジルから抱き着きに来てくれる…あぁそれはそれで刺激が強くて魂が抜けてしまいそうです!!
ありがとうございました!!
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