甘えさせて 2
「ガジルー、頭洗ってやんぞー」 「ん。」
ざばぁ、と体を洗い終えたガジルの後ろにナツは座り、シャンプーを手にとる。 その間もハッピーの視線は痛いほど突き刺さる。
「…ハッピー、もうちょい俺を信じてみてもいいと思う。」 「ガジルに関しては本当にナツ残念な変態だから仕方ないよ。」 「今日は毒舌だな…っ」
ガジルの黒い髪にシャンプーをつけ、泡立たせる。 …それにしても、今日のガジルはどこかおかしい。 いつもより口数が少ない気がするし、なによりガジルからナツに近付いてくるなんて…。まあ、嬉しいのに変わりはないが。
(……デレ期か?) 「何考えてるのナツ?」 「いや、何もやらしいことなんて考えてねーよ。」 「さらっと今自白したね」
何の事かな、とナツは軽くあしらい、目の前に居るガジルの事をまた考える。
メタリカーナとリリーがいなくて寂しいからだろうか。 …無理もないか。同じS級魔導師で、あまり家に居ない父親をナツも持っているが、ナツはまだしもガジルはまだ親に甘えたい年頃だ。
「…ガジル、もしかして二人がいなくて寂しいのか?」 「…全然。一人は慣れてるし。」 「強がんなって。俺とハッピーがいんだろー」 「…ガキ扱いすんな」
実際まだ子供じゃん…。 そう思ったが口には出さず、泡を流してやった。
「ガジルまだ子供じゃん。」 「うるせー」
ナツが思っていた事をハッピーが代弁した。
「しっかしガジルの髪はほんといいな。触り心地が。」 「……。」 風呂から上がり、ガジルの髪をドライヤーで乾かしてやった。 ドライヤーの熱風で温まった髪はふわふわして触り心地がいい。いつもなら「やめろよ」とナツの手を払うガジルだが、仏頂面のまま何も言わない。 これはそっとしておいたほうがいいのかもしれないと、ナツは思っていたらガジルが口を開いた。
「……ナツ…。」 「ん?」 「座っても…いい…?」 どこに?と思ったが、どうやら胡座をかいているナツの上に座りたいようだ。 「いいぞ。」と笑いながら言ってやると、ガジルはナツの足の間に腰を埋めた。
「…前、から……。」 「ん?」 「…一週間、前から…メタリカーナと、連絡つかないんだ…。」 「!…。」
ぼそぼそとガジルが話し出した言葉はナツが初めて知ったことだった。 約十日ほど前、一人でS級クエストに向かったメタリカーナが一週間音信不通。幼い息子に心配かけさせないように、長期クエストの時は二日に一回は必ず連絡をよこす彼が…。 イグニールが今朝血相を変えて急に出ていったのはそのためか。おそらく、リリーと一緒にメタリカーナを探しに向かったのだろう。
「……メタリカーナ…大丈夫かな…っ」 「…大丈夫だって。お前の父ちゃんめっちゃ強えーじゃん。」 「だって…っずっと、連絡…っこなくて…っグスッ」
今までの不安が一気に溢れ出たかのように、ガジルの目からは涙がボロボロと頬を伝った。 メタリカーナを探しに行くのに連れていってもらえなかった悔しさもあるのだろう。 ナツはガジルを抱きしめ、頭を撫でてやった。
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