ろっぷいやーくらっしゅ。


※臨也さんが初めからおばかです




「……」
「可愛いなあ、可愛いなあ!」
「おい、」
「ねえねえシズちゃんも見てよ!可愛いよねえ〜飼いたいなぁ〜」

ここは豊島区内の、池袋から少し離れたところ。臨也と静雄は、休日が合う日に時々こうして二人で出掛けるのだが、臨也がどうしても"ある動物"を見たいと言うので、大型のペットショップへとやって来ていた。

その動物というのも……

「うさぎ可愛いね〜」

そう、
来年度の干支の兎である。
この間たまたまつけたテレビ番組で、その兎の特集が組まれており、それを見た臨也が「うさぎ見たい!」と言い出したのだ。
やれやれ、と思いつつも、久し振りの二人の休日に静雄も悪い気はせず、こうして一緒にやって来たのだが。

「ねえねえっ、飼おうか!うさぎ!」

子供の様にはしゃぐ恋人。
初めはまだ「恥ずかしいだろ」位にしか思っていなかったのだが、そのうち話し掛けても無視されるようになり、完全に兎ワールドへ旅立って行く始末。

その様子に段々と腹が立ってきた静雄は、かなり頑張って力を抑えたげんこつをお見舞いし、ズルズルと臨也を店から引き摺り出した。

「……おい」

店の横で気絶しているらしい臨也を呼び戻すようにその身体を揺さぶると、ぱちっと目を開けた臨也がこちらを見て破顔した。

「うさぎ、飼おうよ」

そして開口一番何を言うかと思えば、またそんな事を言う。静雄はいい加減うんざりして、「あのなあ…」と苛立ち混じりに睨み付ける。すると、臨也の口はますます弧を描いた。

一体何がそんなに可笑しいんだ、と臨也の顎を掴むと、彼は話し始める。

「シズちゃんさぁ……自分が構って貰えなかったから嫉妬してるんでしょ?」

うさぎに。

と言われ、静雄は暫く呆然とした。

「………は?」
「だから、嫉妬してたんでしょ?ははっ、可愛いなあ〜」

「――…なッ…!?んな訳ねえだろ!!」

臨也の言葉の意味がようやく分かると、静雄は、かっとなって言い返した。まさか、そんな筈はない。しかし臨也は、尚もいけしゃあしゃあと言葉を紡ぐ。

「ああ…そうだねぇ…、兎は飼いたいけど臭そうだしでかくなるからいいや。でかくても良い匂いがするシズちゃんをもがががっ……!!」

「…―し、死ね!!」

慌てて臨也の口を押さえ付ける。近くを通りかかった家族連れに静雄は無理矢理な愛想笑いを浮かべたが、彼らはそそくさと逃げるように立ち去っていった。

手の下で、「んー!」と息苦しそうに臨也が暴れている。静雄は大きく溜め息を吐いて、その手を離した。


  ・・・・・

池袋 高級マンション

あれから何とか泊まる予定だった臨也宅に帰ると、電話が掛かってきた。それは弟の幽からで、今日は夕方からスケジュールが空いてるから久し振りにお茶でも飲みに来て、というものだった。

あの弟にしては珍しく積極的な誘いにやや驚きつつも、久し振りの肉親との会瀬に嫌な気は一つもしなかった。臨也も、しぶしぶだがそれに承諾してくれた。

……相変わらず凄いマンションだな…。

幽が住んでいる、彼が一件まるまる買い取ったというマンション。この東京で、マンションの一室を買うのでさえもの凄い金額だというのに、まるまる一つの高級マンションを買ってしまうなど、幾らしたのか静雄には想像もつかない。

やたら広いエントランスを抜けると、そこには見馴れた人影が見えた。

「いらっしゃい」
「おお、久し振りだな幽」

その姿を見て、静雄は幾分と頬を綻ばせて足早に近付いた。
弟も、表情の無いそれに、若干の笑みを浮かべたように感じる。

挨拶もそこそこに、幽は兄を自分の住む部屋まで案内して、広々としたリビングのソファに座るよう促した。

静雄は座って、「ほー」と感嘆の声を漏らしながら、物珍しそうに部屋の中をキョロキョロと見渡した。

「ちょっと待ってて」

と、弟がお茶を淹れに席を立つ。

自分の座るソファも、数は少ないが置かれている家具も全て高級そうだ。サングラスをしまい、幽がお茶を淹れるのを待とうとしたときだった。

「――…ん?」

何だあれ。

一瞬視界の隅の方に入り込んだ白い物体に気を取られ、リビングの奥に置かれた棚に目を凝らす。
雑誌や本などが入れられた棚から、何か白いものがはみ出している。黒地に、本しか詰められていないその棚で、それは酷く浮いていた。

「お待たせ」
「…なぁ幽、あれ何だ?」

ティーカップを持って戻ってきた幽に、思わず指をさして訊ねる。「ああ、」と訳が分かったように弟は表情を全く変えずそちらへと歩み、静雄が気になっていた白いものを棚から引き抜いた。

「これ、撮影に使ったんだ」

無表情で淡々と事情を話す弟。その手に持っているのは、ビニールに包まれた、ふわふわとした可愛らしい、人間サイズの真っ白な兎の耳だった。

静雄はその瞬間、ぴきり、と顔を強ばらせる。

「……お前…よくやれたな」
「?だって仕事だし…」

その顔からは何の気色も窺い知れない。

「雑誌の撮影で…来年の干支に因んだコスプレをやったんだけど、それで貰ったんだ」

静雄はそれに相づちを打っていたが、頭では昼間の事を思い出して、それを凝視してしまう。

「……」
「………」
「…………これ、あげるよ」
「は?」

唐突に、それまで兎の耳…略してうさみみを握ったまま沈黙していた幽が、静雄に向かってそれを差し出した。
何の前触れも無くうさみみを突き出された静雄は、それと弟の顔とを見比べて、狼狽する。

「…似合うと思う」
「あ……、えっと…何が」


「兄さんにこの耳、似合うと思う。」



  ・・・・・

新宿 高級マンション


―――どうしてこうなった…

結局言われるがままに兎の耳…略してうさみみを持って帰った静雄。とんでもない贈り物だが、弟に似合うと言われて、少し心が揺らいだのもある。そして……うさぎ。

「………。」

――うさぎ可愛いよねえ
――飼いたいなあ


「――……ちっ…」

昼間の臨也が一瞬頭をよぎって、静雄は舌を打った。
――だから何だと言うんだ。
別に…自分も兎は嫌いじゃないし鳴かないし普通に可愛いと……だって動物だし…。

動物……

その時、ふと思った。



「…俺……動物に負けたのか?」




久し振りに一緒に過ごす筈だった今日。楽しみにしていなかった訳がなかった。

しかし、臨也といえば、口を開けば「うさぎ」「うさぎ」。

話し掛けても「うさぎ」。
引っ張っても「うさぎ」。

殴り飛ばしても――


蹴り飛ばしても――………



「―………」



――これを着けたら、
どんな反応をするんだろう


  ・・・・・


――ガチャ

風呂から上がって髪を乾かしていた臨也は、ドアを開閉する音を耳にして、静雄の帰宅を知った。
しかし、おかえり、は言ってやらない。
今日一日、自分一人で静雄を独り占めするはずだったのに、殴られ蹴られ仕舞いには弟に会いに行くと言って帰宅早々出ていかれてしまったのだ。

――ちぇ、嫉妬するシズちゃんは可愛かったのに。

ドライヤーの音で聞こえない振りをして黙ったまま、扉の向こうを歩く足音に耳を澄ます。

それはリビングに向かったところで途切れた。

「………」

一体何て言ってやろうか。

手ぐしで髪を整えるのもそこそこに考えを巡らしつつ、脱衣所から廊下へそっと出る。

――テレビも点けずに何やってるんだろう。

もしかして反省してたり?などと脳天気な事を考えながら、抜き足差し足でリビングを覗く。そして、



「――……シズちゃん…?」

「―――ッ!?」


ビクッ、と、悪戯を親に見付けられた子供のように身体を強ばらせて、ギギギ、と恐る恐る首をこちらに向ける静雄。

ソファ越しにこちらと目が合った――と同時に、「うわぁぁああああああ」という絶叫と共にソファがこちらに向かって投げ飛ばされた。

「いや!うわぁぁああはこっちの台詞だよ!ちょっ……、何処で仕入れたのそのうさ耳……ッ!?」

臨也がリビングを覗いて声を掛けたその時――

サングラスを外した静雄が、正に何処からか取り出したうさぎの耳を装着しようとしていたのだ。


「ちょちょちょ…ちょっと待っ…、あ!パソコンは止めて投げないでっ!!」
「うるせえ!!一体いつからそこに居やがったんだ!死ね!!殺す!!!」

余りの羞恥に耳まで真っ赤になった静雄が手当たり次第にものを投げつけてきて、室内はさながら戦場のようになっている。しかし、混乱しているのか、静雄の頭には真っ白な兎の耳が装着されたままで、それが空間に相当な違和感を醸し出していた。

命の危険を感じながら逃げる臨也だが、笑いが止まらない。

――ああ、もう

「ごめんねシズちゃん…あははっ、まさかッ、そんなに嫉妬しちゃってたなんて…っぷ!……っくく…」

「な、なっ…笑うなノミ蟲!!うざや!!死ね死ね死ねっ!!」

可哀想な程にどんどん赤くなっていく恋人に、とてつもない愛しさが込み上げてくる。

――隙を見て、静雄の真正面に滑り込んだ臨也は、顔を近付けて言った。

「シズちゃんが一番可愛いよ」
「……―っ!」

唇をぎゅっと噛み締めて、恥ずかしさに潤む瞳がこちらを見て揺れる。

「……ほら、やっぱり可愛い」

動きを止めた彼の頭を抱き込むようにして耳元に口を寄せる。

――……どうしよう…このまま食べちゃいたいな


僅かに肩が震えたかと思うと、背中に手が回され――



「いや、風呂入ってからな」

と、ムードも何もない真顔でそう告げられた。


  ・・・・・


あの後、家の中の片付けという愛も何もない二人の共同作業を終え、風呂に入って行った静雄。

残された臨也は、妙な怒りと喜びが入り交じった心境で、静かにコーヒーを啜った。


「……じゃあ次は、猫耳でいこう」









2010/12/05




詩歌さま666HITキリリク小説でした!詩歌さま、ありがとうございましたそしてすみません!!

ふふふ、ふざけすぎましたすみませんすみません(;□;)!!

リクエストを頂いた時、「う〜ん…今回は捻りたいなあ」と思い、嫉妬シズちゃんというリクエストを捻りまくってしまいましたすみません…。

幽くんは、お兄ちゃん大好き、ということで(笑)

素敵なキリリク、そして当サイトへ足を運んで頂きありがとうございました!!



「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -