偽愛DEEP


※R描写はありませんがアダルトな内容です。



「しつこいなぁ、もう貴女に用は無いって何度も言ってるじゃない…」
「金払えば良いんでしょう?!金なら」
「――ああ、いい、いい。要らないからそんなお金。」
「50万、払うわ!!」

――50万……

その言葉に一瞬考える。しかし、答えは決まっていた。

「――高校生相手にそんな大金払っちゃ駄目ですよ、"1日限り"って約束だったでしょう?」
「でも…っ…」

――はぁ…
――これだから女、特に
"未亡人"ってのはしつこい。

目の前の女の顎を掴み上げ、酷薄な笑みを湛えながら彼は言い放った。

「そう何度も抱いて気持ち良いモンでも無いんだよねぇ、年増女ってのは」

ぴし、と女が身体と表情を強張らせた瞬間を見逃さず、彼は服を掴む手をすり抜けるようにして玄関を飛び出した。

――その時だった。



「折、原…?…」
「え?」

自分が飛び出したアパートの部屋。その隣のドアから正に出ようとしていた人影が、眼前で声を上げた。

「先生……」



  ・・・・・

来神高校2年生の折原臨也は、趣味の一貫で援助交際の様なものをしていた。基本的に出会い系サイトを使ってそういう人間を適当に見繕い連絡を取る。そして金を貰い一回寝て、直ぐに切る。

女はしつこい。
相手もそのつもりだというのが大半ではあるが、人肌に只でさえ飢えているような未亡人や既婚者と言うものは本当にしつこく二回目を迫ってくる。だが儲けるにはこれらの女は金を叩いてくれるから、都合が良い場合もある。こちらが我慢すればいい。

しかし臨也は、一回までという決まりを必ず守っていた。

只の趣味なのだ、性欲処理も兼ねた。最近は大分飽きてきたし、女の行動パターンも把握出来るので刺激が無くなっていた。

それに、今
臨也には気になる人間がいる。

  ・・・・・

来神高校 国語準備室

「まさか先生があのアパートに住んでらしたなんて、知らなかったですよ!」

コーヒーとかび臭い匂いが漂う、埃っぽい部屋。壁沿いに教材のぎっしり詰まった重厚な棚が立っており、床に積まれたいくつかの段ボールが、臨也の足に当たってぐらりと揺れた。

割りと大きな窓が奥にあり、西日なのか夕方の今、大分強い光が差し込んでいる。その真ん前に置かれた職員用のスチール机と、それに対応した回転椅子。その椅子に座っているのは、今朝方臨也が"訪問"していた部屋の隣から出てきたのと同じ人物だった。

「平和島先生?」

――平和島静雄。
彼は折原臨也のいるクラスを受け持つ担任教師である。およそ教師にそぐわない金髪頭にサングラスという出で立ちだが、素行の良くない来神高校の生徒たちの中で一目置かれているという面において、それは正しい格好なのかも知れなかった。

普段は非常に穏やかな人柄なのだが、些細な事で直ぐにキレると有名で、国語教師の癖に高説ぶった論理をくどくど捲し立てる奴を苦手としている。

そして、その筆頭が折原臨也だった。

「折原、お前あの部屋で何してたんだ?」

百刀直入。
真正面から、静雄は突いてくる。それに苦笑しつつ、臨也は棚にもたれ掛かった。

「―……やだなぁ先生、野暮ってモンですよ?」
「担任として、訊いてんだ。あそこには去年旦那が死んだ女しか住んでねぇ」

もう一度聞く、何してたんだ、と。彼は真剣な瞳をサングラス越しに揺らしながら訊ねてくる。臨也は溜め息を吐いた。

「……実はね俺、先生があそこに住んでるの知ってたんですよ」
「…あ?」

先程と言うことが180度違う臨也に、静雄は首を傾げた。臨也は気にせず言葉を続ける。

「知ってて、わざとあそこに行ったんです。……何やってたかなんて、解りますよねぇ?」
「……っ…」

僅かに、息を詰まらせた担任に、臨也は満足そうに微笑んで背中を棚から剥いだ。

そしてゆっくりと近付き、右手を相手の肩に置き、顔を寄せる。臨也の右頬が、こちらから見て静雄の左頬にぴたりとくっついた。

――気になる?

耳元で囁くようにして訊ねる。それはまるで子供をあやすかのような口調で、およそ生徒の教師に対するそれとは全く異なる色を持っていた。

「……ねぇシズちゃん、俺があの女と何してたか気になるの?…」
「ち、が…」

段々と、臨也の色を持った口調に拍車が掛かってくる。それに対する静雄の声は弱々しい。クク、と臨也は喉の奥で笑った。

「"また"抱いてあげよっか?」
「――臨也ッ!!」

ドン、と肩を突き飛ばされ、完全にふいをつかれた臨也は床に尻餅を突いた。

「……ったぁ…、全く…。無駄に馬鹿力なんだから…でも名前呼び合うの、これで二回目だね"シズちゃん"?」
「調子に乗んなよ、手前…」

肩を竦める仕草をすると、静雄が椅子から立ち上がって臨也の前に聳え立った。

「……あーらら、怒っちゃった?それとも、拗ねた?」
「……何で俺が手前に拗ねたり怒ったりする必要があんだ」
「だって先生、俺の事嫌いだけど大好きでしょ?」

そんなこと、と言いた気に口が開かれるが、ぐ、とその声は押し込まれる。真っ白になり、血が出るまで握り締めている拳が視界に入り、臨也は溜め息を吐いて立ち上がった。

「……素直じゃないなぁ、」

相手に聞かせる為ではないその呟きが静雄の耳に入る前に、その頭を掴んで乱暴に口付ける。
「っふ!……うッ」

抵抗しようとしたのか、静雄の手が虚空をさ迷う。

――身体を突き飛ばせばいいのに、簡単な筈なのにそれが出来ないんだよね…?

胸の中をぐるぐると、感情が渦巻いて深い深い暗闇に堕ちていく感覚。底の無い不安に取り付かれ、それと反比例するかのように膨らみ続ける愛情が、その行為を辛うじて引き繋いでいるようだった。

――男、なのに

女は馬鹿で狡い。
男は賢くて単純。
それが臨也の簡単な性別に対する認識だったが、図らずも目の前の男に対しては、完全にその基準に当て嵌める事は出来ないと知る。
「―……シズちゃんは、馬鹿で、単純で、なのに賢くて……狡い」

自らの欲望に対して忠実な彼には理解し得ない。

――どうして好きなのに好きだと言えないのだろう?

壮大な自惚れのような聞こえだが、それは紛れもない事実であり、どうしようもない真実だった。

――柔らかな金髪を弄んだあと、耳に触れ、指先を艶かしく首筋に沿ってつつ、と動かす。たったそれだけで、もう限界とでも言うように服を掴まれた。

……止めてよ、千切れる

自分でも妙に冷静になってそんな言葉が頭に浮かんだ。あまり経験が無いのか、キスの息継ぎが下手くそなこの教師は、先程から苦しそうな声を洩らしている。

やれやれ、と最後に舌をくちゅりと奥に押し込んで、唇を離してやった。何分間だろうか。五分くらいはキスをしていたかもしれない。そんなのはどうでもいいけど。

ぺたんと床に崩れ落ちた静雄が、こちらを見ずに言う。

「―…っ、ぁ…なん、で…?」

…何に対しての何で、だろう?
俺のさっきの言葉?
それとも――キスをしたこと?

「…シズちゃんが掴めないから、だよ」

両方に対する答えだった。
――狡いシズちゃん。
いつだって俺の事を気に掛けて、俺がアンタを嫌いだなんて勝手な被害妄想を作り上げたかと思えば、今日みたいに誘うように挑戦的な態度。
……いい加減にシズちゃんは、俺に好かれたいのか嫌われたいのか、ハッキリしたらいいと思う。

曖昧な態度が、一番不安だ。

「俺はシズちゃんが好きだよ、大大大大大好き―――って言って、信じる?」
「……いや、」
「じゃあまた抱かれてよ」
「…嫌だ」
「じゃあまた抱かせてよ」
「……」

ほら、曖昧だ。
曖昧以前に、"俺"主体でシズちゃんの世界は回っている。自分の欲求は一切押し付けてこない。常に『俺』本意。

――俺はそれが怖くて寂しくて堪らない。

スル、とネクタイを引っ張って外すと、睫毛が揺れた。僅かに噛み締められる下唇の緊張を解そうと、ぺろ、と舐めてみる。

「んっ…」

肩に力が入ったのが、シャツを脱がす手越しに伝わってきた。ゆっくり、ゆっくりとボタンを外していく。

……俺たちの愛情表現って、これしか無いのかなぁ、やっぱり。

まだこれで二回目だ。
もっと回数を重ねれば、何かが違うのだろうか?この不安を、取り除く事が出来るだろうか?


「愛してるよ…」




昨晩も別の女に囁いたこの言葉を、俺はいつ信じる事が出来るだろうか。





そんな陳腐な台詞じゃ足りない位は、愛してる。っていう矛盾。






2011/01/05











やってしまった。
以上、3333HITリュテイルさまキリリク、生徒×先生のイザシズでした!リュテイルさま、ありがとうございました〜。

それに見合うような文ではありませんが、すみません!
切ない感じのハッピーエンドなのか…

裏設定を凝ってしまいまして、なんだかまだまだ物足りないのでシリーズ化します。

タイトルは未定です…。
勝手ながらシリーズ化させて頂き…ま、すが、宜しいでしょうか?

当サイトに遊びに来てくださったリュテイル様、そして、今この文章を読んでおられる方々全てに最高級の感謝を……


ありがとうございました!!


テルル

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