BookMark





―――背後の人影と相対したとき、折原臨也は嗤っていた。
それは、自虐とも、余裕とも、苦笑とも、愉悦とも受け取れる、“笑み”だった。

それを見た相手が一瞬怯んだ隙に、臨也はその男の懐に潜り込み、携帯していたスタンガンを突き出そうとした。しかし、相手もそれなりのポテンシャルはあるらしく、無理やりな体勢のまま重そうな蹴りが飛び出してきた。身体はかわせたものの、僅かに掠めるかたちで軌道上にあったスタンガンが手から弾き飛ばされる。

臨也は舌打ちをして手を前に突き、真上に前転するようにして飛び上がる。――そして空中で一回転した勢いのまま踵を相手の首根っこに叩き込もうとした。しかしそれは男がよろめくように前に足を突いたために照準が狂い、臨也はそのまま床に着地する。

相手は懐からナイフを取り出した。
対して臨也は丸腰である。

再び真正面から相対する態勢になった瞬間、臨也は先制を撃つべく床を蹴った。――その時だった。


「…あ、――が……?…」


ドバン、という重い衝撃が、臨也の身体を襲った。
力を入れられなくなった右足が崩れ、そのまま床につっ伏す。

撃たれた。

そう自覚したときには、既に男は至近距離で自分を見下ろしていた。
勝ち誇ったように銃を構えている。

「Go to hell.(死ね)」

そして――臨也は最後の力を振り絞って次に放たれた弾丸が心臓に直撃することを避けた。

しかし、それは臨也の脇腹を撃ち抜いており、臨也はそのまま意識を失った。














時は遡る。

「ねーねー、イ・ザ・に・い!」
「…何だよマイル…邪魔だから離れろよ」

久しぶりの新宿の自宅に帰ったと思ったらこれだ。
臨也の妹の九瑠璃と舞流。彼女たちは一体どうやってここのセキュリティを突破出来たのかなど考えたくもない。
しかし、臨也の顔は嫌がるそれでは無い。寧ろ――嬉しくてたまらないといったような笑みを湛えている。それを見た妹達が気持ち悪そうに絡みついていた腕から離れる。

「え…私たちのイザ兄ってこんなシスコンだったっけ。妹萌えに目覚めたとか…?」
「…離(気持ち悪い)……」
「あーあー、もう勝手に言ってろよ。」

面倒臭そうに片手で二人をしっしっと追い払い、臨也は目の前のパソコンから目を離さない。キーボードで頻りに文字を打ち、マウスを操作してなにやら作業を行なっているようだ。

(――…こいつらが拾ってきたドラッグ。こいつの解析を波江に頼んで…まあ十中八九デニーノのやつがばらまいている型と一致するだろうけど…)

彼がこの家に帰ってきたのは、服を取りに来るためでは無かった。今彼が行なっているのは、パソコンの中に入っているデータを丸ごと別のハードに入れ替える作業だ。

(…しかしまあ…トラブルメーカーのこいつらもたまには役に立つ。御陰で作業が一つ繰り上がったし……)

「……よし、あとは…」

データを移す作業が完了した。ひとつ臨也は息を吐き、椅子にもたれる。

チラリと視線をダイニングの方へ向ければ、なにやらソファで妹たちと静雄が(というより妹たちが静雄に鬱陶しく絡んでいるだけなのだが)騒いでいるようだ。…大方静雄の弟である双子の妹たちが大好きである人気俳優、羽島幽平の話でも聞き出そうとしているのだろう。静雄の辟易ぶりが、何となく可笑しくて臨也は吹き出した。

「〜〜っ――笑ってないで早くしてください!!」
「はいはーい。」

ひらひらと手を振って適当にあしらう。
――しかし一方で、臨也は苛々していた。

ソファに座る静雄の両脇から腕に絡みついているクルリとマイル。
そして、なんだかんだで世話を焼いている静雄。

「……あーあ…なんかテンション下がっちゃった。」


  ・・・・・


――折原臨也は約1年前、一人の男に出会った。
その男はとても脆く、弱い男だった。

どこで、どのようにして出会ったのか…詳しい事は本人自身記憶に留めておらず――そしてそれほど、臨也にとっては利用価値の無い人物の一人だったと言える。

そんな彼が、臨也の助言によって成功を収め、犯罪組織を結成する。

結成…と言うには些か不格好であり、寧ろ“元々所属していた組織を乗っ取った”と言った方が正しいのだが。――どちらにせよ、巨大なシンジゲートを形成することに成功したその男は、遂にその手を日本に伸ばした。


いち早くその情報を手に入れた臨也は、存在すら忘れていたその男の余りの夜郎自大振りに、久しぶりに気持ちの高揚を覚えた。

そしてその時――臨也は『ある計画』を企てる。

その為に必要だった盾。
その適任者が、平和島静雄と言う化物だった。


臨也自身は知り合いでは無い。
中学以来の友人である岸谷新羅のつてで紹介して貰った。

ぶっきらぼうで、まるで愛想の無い男だったが、やけに穏やかな顔立ちをしていた。
似合うような似合わないようなサングラスを掛けて、いつもバーテンダーの格好をしている変な男。――正直言って、それが臨也が静雄に抱いた第一印象だが、臨也は静雄の存在
を小学生の頃から知っていた。

小・中・高と来神学園で育った彼にとって、池袋の情報を知ることは容易い。
小学生の頃から、平和島静雄は喧嘩っ早い悪ガキとして、一部の小学生の間で噂されていた存在だったのだ。

――機会があれば会ってみたい

そう思っていた。



そして約15年後、このような形で彼と“直接”会うことになろうとは…その時は予想だにしていなかったが。


そしてまさか自分がその男に惚れてしまうとは。




気が付いたら、好きになっていた。
波江と話していると嫉妬したし、やたらと話題に上る弟にも嫉妬した。
揶揄う度にいちいち返ってくる反応が面白くて、可愛くて、
何に対しても一生懸命で。

だから――だからこそ、

“ここに来て計画を変更せざるを得なくなった”。

代償は、もしかしたら自分の命かも知れない。


しかし、それでも良いと思った。
――良いと思えた。そう思うほど、自分は





「……馬鹿みたいだ」


ばきり、と。

空っぽのハードディスクを割った。


20110901









6月に書き始めて、やっとうpしたのが今、です。
すみません…。詰まってました…(´;ω;`)
今回多分書きたかったのはこんな感じの臨也メインだったはずです。
はじめの3話辺りは、本当に勢いで突っ走っていたので、後で矛盾がチラホラ出てきて大変でした((つД`)゜微妙に修正しているので、これを機に一度読み返して頂ければ…と思います(´▽`)

あともう暫く、この探偵臨也パロにお付き合いください。

当サイトにお越しくださり、ありがとうございました。


テルル









<<  

「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -