Agape



PSYCHEDELIC DREAM(R15)の続きのようなもの










そろそろ―――か…


ピンクのコードを指で弄ぶのを止めて、窓から月を見上げる。

「…………しず、お…」











高架橋の下。
夜、いつものように上司と仕事終わりに別れたらこれだ。目の前の、歩道と車道を仕切るガードレールに凭れかかるその姿は、ふとすれば影に呑み込まれてしまいそうな程に黒い。

それは、静雄を嫌う人物。

「――やぁ、シズちゃん。待ってたよ。」

何の用だ?

「ちょっと…ね。ここじゃアレだと思って色々場所を検討してみようとしたんだけど、止めたよ。」

何わけわかんねぇこと言ってんだ


じゃり、と足元からアスファルトと砂の擦れる音がする。

「……俺、考えてみたんだ…俺がこの世で一番嫌なことについて。」何が言いたい

「ふふっ…解んないかな?まぁ、そんなお粗末な頭じゃ解らないのも当然かな。」

っ…!殺すぞ…

そう言ってガードレールに手をかけると、目の前でバサリと黒い幕が展開した――それは臨也がこちらに放り投げたコートであり、一瞬訳が解らなかった静雄はそれに捕まってしまった。もたつきながらコートを視界から落とせば、目と鼻の先に、

目を見張るほどに端整な



「――っ!!」
「俺がこの世で一番嫌な事……それはね…?」

そして、その顔は妖艶に微笑みながら。


「君に好かれることだよ。」




「――だけどさぁ、俺、何だか最近変なんだよねぇ……。俺は絶対にシズちゃんを人間だなんて認めたくなくて、同じ空気を同じ人間としてシズちゃんと共有するのだって吐き気のする気持ち悪い事だって思ってたんだけど…、」

「最近そうでもないらしくてさ。」


「……だって気付けば、いつもシズちゃんのこと考えてる、んだ、よねぇ…。」

こちらの反応を窺うように、チラチラと臨也の視線がこちらを射抜く。

「わけ、わかんね…んだよ」
「え?」
「嫌いだとか、好きだとかっ!全然解んねぇよ!!手前が…っ、俺…は……」

地面にある黒いコートを踏みにじりながら、静雄は胸の内をのたうち回る気持ち悪い何かを必死に押し込めようとした。
臨也は静雄の数歩手前で立ち尽くしたまま、その行為を目を丸くして見詰めている。

「ク、ソ……野郎っ…。やっぱ手前はノミ蟲以下だ!訳解んねぇ……手前のせいで俺は…」
「俺が悪いの?」
「ああ悪いな!手前が初めっからいけ好かねぇノミ蟲だったっつう事から全て悪い!!」
「俺の存在全否定?」
「ちがっ…!」
「じゃあ何が言いたいの?それ以上下手なこと言われると不愉快なんだけど。」


いつだってヤな野郎に決まってる。でも……

静雄の脳裏に、いつかデリックに言われた言葉がリフレインする。


『好きなんだろ?』



「…て…めぇ、が…この世で一番嫌だっつうんなら言ってやるよ…」

心臓が五月蝿い。
口から飛び出てきそうだ。

地面でくしゃくしゃになった臨也のコートに視線が落ちる。それを持ち上げて、付いた砂埃をそっと払っていると、自然と頭が冷えて冷静になった。

―――デリック、悪い




「俺は、手前の事が大好きだこの野郎。」


  ・・・・・


パリン


(………あ、)

床の上に横たわったままのデリックは、体の奥で響いたその不協和音に目を覚ました。
そしてそれは、明確な崩壊の合図だ。


目頭が熱くなる。
じんわりと、瞳にあつい涙が溜まって、やがてぷつりと糸が切れたかのように顔から一切の表情が消えた。

消えかかる意識の中で、


「――かった、な……しず…お…」

20110513







急にたぎったので書きたくなりましたデリ静前提の臨静です。切ないです。

個人的にデリ静が凄い好きなんですよね…。津静もいいですけど津軽には受けでいて欲しいこの二人には常に受けでいt

テルル


  

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