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――シズちゃんっ





そう呼んだ俺の声は風に吹き飛ばされて―――

俺の身体も、吹き飛ばされた。




「――は?」


と言う、夢を見た。

ばさりと布団から飛び起きて、ピチピチチュンチュンと鳥の鳴き声が聞こえてきて。
――さっきまでのそれはまるで、現実の様ではあったけれど、実際には夢だったのだ、と……

隣で眠る、愛しい愛しいその姿を見て確信した。今気付いたが、お互い何も身に付けていなかった。カーテンから溢れる陽が柔らかく、その滑らかな肌を舐めている。

「……ああ、夢か。」

しかし、彼の心は多少寂莫とした思いに囚われていた。緊張が解けた――と言えば、そうに違いないのだが、そのように単純なものでは無かった。
もしかしたら、彼は、先程まで見ていた「夢」が、「現実」であればいいのに――と

思ってしまっていたのだから。








Sub:みくろがまくろに恋をした。










「――は…っん、ぅ…!…」
「っ…」

真夜中。
公園のトイレの個室という、公共と私用の狭間をさ迷う不確定な場所で。

折原臨也と平和島静雄の二人は、人知れず“行為”に浸っていた。深夜の秘め事を行うには不十分とも言えるその空間に、大の――しかも男同士が息を潜めてお互いを貪り合っている。

――いつからだろう?

ふと気が逸れて奥を抉ると、壁に静雄がへばりついて、唇を噛み締めていた。それに少し反省し、手を前に回して抱き締めてやる。そうすれば、幾分か身体の強張りが解けて、恐る恐るといった様子で振り返ってきた。

「……いざ、や…」
「…物足りないの?」

弱々しく首が横に振られる。「充分だ」と言って、赤くなった。きっと彼は、心は繋がらなくても、身体が繋がっている事に充足感を得ているに違いないのだ。つまりそれは、自分たちが身体だけの関係である事を如実に物語っている。

手を、ベストとシャツの間に敢えて潜らせて、浮かび上がる突起を摘まんだ。

「……っ、…」

同時に下も攻めてゆけば、その長身を感じさせない程に目の前の存在が弱く見えるのが臨也には可笑しかった。

自分の掌の上に乗せようとしても乗らない代わりに、こういう時だけは妙に従順だ。…いや、快楽に従順なのは他の人間も同じか。では、平和島静雄も「人間」なのではないか?

自分が愛する「人間」のうちの一人なのではないか?

最近、そんな考えが頭をもたげ始めていて、高校時代から続くこの醜悪な“行為”に、意義が発現してしまうのではないかと恐れている。

「――んぁあっ…はっ!…」
「……っ、…」

トイレの床にボタボタと零れ落ちる白濁が、この時は妙に虚しく目に映った。

そして急に目の前の背中にすがりつきたくなり――抱き着いた。抱き着いてしまっていた。




「……好きだよ」

胸に渦巻くこの感情を収束する言葉は、それしか思い付かなかった。

ややあって、キスをした。







――これは、二人が結ばれた時の話だ。

そして、臨也が見た“夢”とは、その「現実」とはまた別の結ばれ方をした話。


―――

「おはようシズちゃん」
「…ん、っ…はよ…」
「…ねぇ聞いてよ、俺、凄い夢を見たんだ」
「へぇ…どんな夢だ?」
「聞きたい?」
「………聞きたくないっつってもどうせ話し始めんだろーが。」
「流石!解ってるねぇ」
「っ…変なとこ触るな!」
「まだ柔らかいね…出しとく?」
「自分でやるからいい…」
「またまたぁ…自分でやらせたら、シズちゃん我慢できずにまーた一人でえっちな事しちゃうじゃない」
「してねーよ!勝手な妄想す――うぁんっ」
「ほーぉらー…気持ち良い癖に我慢しちゃってぇー」
「く、そっ!…あ、ぁ」
「……結構多いね」
「手前が…っひぅ!…」
「――じゃあ話そうか、俺の夢の話を…」
「ゆび、ぬ、けっ…!!」
「…まあ、これが終わったら話そうか」





――ねぇシズちゃん。
もし、もしもだよ?


俺と君との立場が逆転していたとしたら、君はどうやって俺を受け入れてくれるだろう。

見てみたいなぁ…

夢にしてはやけにはっきりと詳細を覚えている。只の夢で終わらせてしまうには勿体無い話だ。


――そして臨也は、夢の内容をゆっくりと反芻し始めた。





20110227









まだまだ序の口ですな!←
っていうか、妙に堅苦しい文章だ……文読んだ影響かも…


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