“Sweet×sweet” room 前




――あの時間を、まだ忘れられずにいる。

二人で一緒に過ごした思い出は、まだ


君の中で生き続けているだろうか?







































――シズちゃんと付き合い始めて、だいたい四ヶ月くらい…かあ。


進級し、二人はいよいよ高校生活最後の年を迎えることとなった。
その間の二人の関係は概ね順調で、特にこれといった喧嘩をすることもなく――というより、ぶっちゃけ二人で過ごす時間が圧倒的に少ないのがその理由だった。

キスは、している。
でも、手をまともに繋いだことがない。
デートもしていない。
そんなわけで当然まだヤってない。

寧ろ「付き合う前のほうが絡み多かったよね…?」的な状況に追い込まれているのだ。クラスは臨也と新羅が(かなり抵抗していたがやむなく)A組で、静雄はB組。おまけに校舎の構造上何故かA組とB組で階が分かれている。
二年生の頃…付き合い始めて直ぐの頃は、必ずお昼ごはんを屋上で一緒に食べていた。しかし、それを同級生の何人かに目撃された挙句、「折原臨也と平和島静雄は実は仲良し」などというウワサが流れ始め、これに委縮した静雄がこちらを避けるようになってしまったのだ。
…そして、挙句の果てに学校では殆ど顔を合わせることが無くなり、というか廊下ですれ違っても顔を反らされ存在を無視される始末。これではとてもじゃないが、臨也が思い描いていた「シズちゃんとのラブラブ(略」は程遠い。

ただ、メールだけにはいつも返信があった。

静雄の方からは殆ど連絡がくることはないが、臨也がメールをすれば必ず遅くても返事か来る。その内容がどれだけくだらなくても、必ず。――だから、二人の関係は、一応成り立っているのだった。

(…とは言っても、普通の付き合い方じゃないし。…正直虚しいことこの上ないんだけど。)
夜、臨也はベッドに寝転がりながら携帯を手にまた静雄にメールを打っていた。

〈やっほー(´▽`)今日で俺たち四ヵ月なんだよっ♪知ってた?〉

直ぐに返事が来る。

《知ってた。》

(ありゃ、意外。)
臨也は身体を起こし、壁に凭れて返事を打つ。

〈…ふーん(^ω^)シズちゃんの癖にちゃんと覚えてたなんて偉いじゃない?〉

(これ怒るかな…)
ニヤニヤしながら携帯を閉じ、再びばふんとベッドに身体を落とす。どきどきしながら返事を待つのに、一行に着信は無い。くっそー外したか…ふざけなきゃ良かったと若干の後悔に見舞われながら、風呂でも入ろうかとベッドの淵まで腹ばいで移動する。そのときだった。

いきなり携帯がバイブで振動した。

マナーモードにしていたため、バイブが鳴るのは音声着信のみである。
まさか、と思いつつ携帯を取れば、そこには愛しい愛しい名前が表示されていた。

有頂天になってコールボタンを押した。

「はいはーい、どしたのシズちゃん。」
『っ』

息を飲むような、そんな音がして、臨也はますます頬を緩める。
そして、恐らく久しぶりに聞いた恋人の声に緊張と恥ずかしさでいっぱいになり声も出なくなったのであろう静雄をフォローすべく、臨也は通常の五割増しほどの優しい声で話す。

「…嬉しいな、シズちゃんの方から電話くれるなんて。」
『い、いやっ…』
「頑張ったねー、偉いねー?」
『おい、ガキ諭すみたいに言うなよ。』
「っはは」

ごろん、とベッドに寝転がり仰向けになった臨也は、近くの特大クッションを引っ張って抱きつきながら笑った。どうやら少し緊張が解けたらしい。――どうして静雄がこうして珍しく自分から連絡してきたのかは明白だ。
付き合い始めてから一ヶ月ごとに、必ず静雄からこうして連絡が来ているのだ。

「…ほんと、律儀だよね。」
『あ?』
「ううんーなんでもなーい。」

くすりと笑う。なんだか愛おしさが込み上げてきて、堪らずクッションをぎゅうと抱きしめた。――そこでふと、臨也は思いついたことを口にした。

「ねえシズちゃん、来週の頭から期末考査じゃん?」
『ん?…ああ、そうだな。』

よっ、と上半身を起こす。

「じゃあ、明後日の金曜から二泊三日で俺ん家泊まりに来ない?」
『――は!?』

どんがらがっしゃーん、と、なにやらテンプレート極まりない音が電話越しに聞こえてきた。椅子から転げ落ちたみたいな、そんな音だった。
――実は、前々から考えていたことだった。臨也の両親は海外にいることが多く、家には自分と妹たちだけ。しかも今月、その双子の妹たちは海外にホームステイしていて居ないので、家には臨也一人きりだった。
ホテルに行くよりも余程マシだと臨也は思う。

このチャンスだけは逃すまいと、明日学校で言おうとしていたのだが、その手間は省けてしまった。

『な、な…っ、つかテスト前におおおまそんな』「んー…ダメ?」
『…っ、いきなりすぎ…』

その後、暫くの沈黙があった。
そして。










  ・・・・・


そして結局、臨也は静雄を家に泊まらせることに成功した。

(…どうしよう、思ったよりすんなり事が運びすぎて逆に何か不安なんだけど。)

「お邪魔します。」と玄関に上がった静雄を横目でチラチラと観察しながら、内心で臨也はかなり緊張していた。誘ったのはこっちだし、名目上は「一緒に勉強をすること」で、決してそんなやましい気持ちがあったと言うわけでは…無い、かも知れない。

(あーやばい、シズちゃんが俺の家に…)

それでも、自分の好きな人を家に上げるというのは臨也にとって初めての経験である。今まで女の子は何人だって呼んだことはあるのに、自分でも今更何でこんなに緊張しているのか不思議なくらいだ。寧ろ、この状況で一番緊張するべきは静雄の方なのではないか?
思ったよりも平然とした様子で部屋に上がってきた静雄を見ながら、臨也は息を吐いた。

「…うーん、何か…違うよなあ…」
「?」

きょと、と首をかしげる姿に少しきゅんとしながら、飲み物を持ってくるよと言って部屋を後にした。




「それにしても…あっつい…」

リビングのエアコンのスイッチを入れ、臨也は冷蔵庫からオレンジジュースを取り出す。コップを二つ食器棚から出したときだった。

「いざや」
「…あれ、部屋から出てきたのシズちゃん?」

廊下に続く曲がり角のところから、静雄がひょっこり顔をこちらに覗かせていた。「飲む?」と氷を入れたコップにジュースを注いで掲げると、素直に受け取られる。

「さんきゅ。」
「…ほんと最近暑いよね。まだ7月の頭だってのに…」
「んー…」

ごくごくと、あっという間になくなっていくジュースを見ながら、臨也はほんのりその場の空気を味わっていた。こう言った何気ないやりとりでも、進級してからは殆ど無かったのだ。ふと時計を見ると、もう6時だった。

「やばっ、もうご飯作らないと…」

そう呟けば、静雄がこちらを見て言う。

「えっ、お前メシ作れんの?」
「……いや、まあ人並みには」
「何だそれ、すげー!」
「えっ」

思わぬ反応に臨也は逆に驚いた。空っぽになったコップを片手に、静雄がこちらをキラキラした瞳で見てくる。
(う、うわー!!シズちゃんの目がキラッキラしてる!?)
い、いやまあそれほどでも、などと照れ隠しをしながら臨也は頬を掻いた。

「何でも好きなもの作ってあげる。何がいい?」
「え、いいのか?そうだな……ぷ、プリン…」
「君そればっかじゃん。」

うにーっと目の前の頬を軽く両手で引っ張りながら臨也は笑う。

「おい、はにゃへ。」
「何言ってるのかわっかんな〜い。」

何だかんだでされるがままの静雄に気を良くして、臨也は手を離してやった。
(…うーん…プリンかあ)
頭の中で実はちょこっとやる気になった臨也は、今晩のメニューも考えつつ本気でプリンについて検討を始めていた。再び時計を見て、それから静雄を見る。頬を摩りながら、物珍しいのかリビングをきょろきょろと見回していた。

「テレビでも見る?」
「いやいい。イラっときたら壊しちまうから。」
「あっ…そう…」

さらっととんでもないことを言い放った静雄に臨也は久しぶりの恐怖を覚えつつ、出来るだけイラっとさせないようにしないとなーなどと考えながら晩ご飯の準備を始めた。





  ・・・・・


それにしても、と臨也は目の前の静雄を見ながら思う。

ご飯を食べたあと、静雄と二人でかれこれ1時間ほど一緒に勉強していた。今もこうして、臨也の部屋で二人きりで勉強している。

(…シズちゃん、本当にいつも通りだなあ…)

つむじを眺めながら、こっそり溜息を吐く。
普通、恋人と二人きりで同じ空間にいて、しかも初めてのお泊まりというシチュエーションになれば、自然と“そういう”雰囲気になっていくのが当然の理だと、臨也は考えていた。しかし、一向にそういう空気にはならない。確かにいつもより格段に一緒にいる時間が増えて、静雄もいつもの2割増し程には心を開いているし、雰囲気も甘い…と臨也は思っている。

別に、欲求不満だとか、そんなので静雄を家に呼んだわけではない。
ただ単に、二人で一緒にゆっくり過ごす時間が欲しかった。…ただ、それだけだった。

(…でも、やっぱ)

シャーペンを机に置いて、臨也は丸机の上に身を乗り出した。

「?どうし―――…」

気配に気づいた静雄が顔を上げた瞬間、その柔らかい唇に口付けた。

机に肘を突いて、相手の頬を両手ではさむ。そっと唇を離すと、驚いたような、照れているような表情の静雄が目の前で真っ赤になっている。

「…ぁ…」
「……、」

弱々しい声が溢れると、それを合図に再び唇を奪った。今度は先程よりも深く、角度を付けて。しんと静まり返った部屋に二人の絡みつく息だけが響く。邪魔だと言わんばかりにぞんざいに二人の間に挟まれていた丸机を足でどかせると、臨也は静雄の上にのしかかるようにして押し倒した。

「っふ、ん、っ…」
「…、…はっ」

一度タガが外れてしまうと、あとは何も考えられなくなる。
とにかく目の前の存在が好きで、好きすぎて、おかしくなる。

背中に遠慮がちに伸ばされる手が、きゅうとこちらの服を掴んだ。

「臨也…っ…いざ……」
「っやっば…」

――…会いたかった

と。
目が、口が語っていた。

完全に煽られた臨也は、歯止めが効かなくなりそうで怖かった。

「…早くお風呂、入っておいで…?」

ふとすれば泣き出しそうな程真っ赤になっていた静雄を抱きしめて頭を撫でつつ、自分にも言い聞かせるように臨也は耳元で囁いた。

「出てきたらシズちゃんのして欲しいこと…何でもしてあげるよ」








20110629


過去編の続きに当たるお話の第一弾!やっとスタートしました。
日常編と題しまして、来神時代の二人のお話になります。過去編読んでおられなくても大丈夫だと思います(^^)終盤はちょっと読まないと解らない場面が出てくるかも…?

基本的に内容はすごく甘くなる予定です。
こちらのほうも宜しくして頂ければ幸いですf^^*)

テルル

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