ひみつ、ってパパが言ってた。




「――ズちゃん、シズちゃん」
「………ぁ、いざ…や?」
眠たい目をごし、と擦って、静雄は聞き慣れた声に呼ばれた気がして目を覚ました。案の定目の前に迫るのはムカつく程に端正な顔立ちをした、アイツで。やや頬を膨らませながら、静雄は寝起きの回らない頭でその顔に甘えるように手を伸ばした。
「……ねみぃ、…」
「ふふ、俺臨也じゃないよ、サイケだよ。」
「……、あ?」
その言葉に、静雄はぽかんとしてまばたきをする。手にそっと口付けられ、何だか物凄く夢見心地の静雄はしかし相手が臨也だろうがサイケだろうか関係なくなってしまった。
変な時間に起こされたからか、どうしようもなく身体が疼く。
「……どうでもいい…」
「ん、っ!いっつも臨也くんにこんな事してたの…?」
「さぁな。てかお前…本当にサイケなのか?」
「…いつまでも幼児体型な訳無いでしょ。俺さぁ、津軽しか無理だと思ってたんだけど…シズちゃんもイケる気がする。さすがオリジナルだね、……津軽の2割増しで淫乱かも。」
「…っ、あッ……」
その時、臨也と瓜二つの顔で唯一の違いである暗闇でも光るピンクの瞳に見詰められた。瞬間、胸の奧が抉られるように疼き、そして今自分にのし掛かっているのが臨也ではないと言う事実にいきなり恐怖が沸き起こった。
「っや、ぃや…!だめ…」
「やだなぁ、誘ったのはシズちゃんなのに。」
「っひ!助け、うぁ…んっ」
「うっひゃー、トロトロだねぇシズちゃん…?」
低い声でそう言われると、本気で臨也のような錯覚に陥って、身体が勝手に感じてしまう。
シャツの下をまさぐる手も、顔に触れる細い指も、顔も、身体さえも臨也と同じ感触で。――でも、



「臨也じゃなきゃ、ッ嫌だぁああ――!!!」

「………えっ?」


そこで、何故か不思議と“初めて喉が震えた”気がして、ぱちりと目が開いた。――夢だったのか。汗だくの静雄は一先ずホッと溜め息を吐く。

しかし、直ぐに自分が叫んだあとに聞こえた声に気が付いて、胸から腹にかけて拡がる圧迫感にまさかまさかと首をギギギと下へ向ける、と。

「へええ、ふうん?」
「い、ざ……」

まさか、
まさかまさかまさか。

「俺じゃなきゃ、嫌なんだあ。」
「―――ッッ!?」

その時、静雄は史上最悪の瞬間を味わうこととなった。一番聞かれたくない台詞を一番聞かれたくない相手に聞かれてしまった、という事実は、静雄を羞恥で憤死させるには充分の威力を持っていた。

恋人である折原臨也は、その赤い瞳をすぅ、と細めて、まるで草食動物に今にも飛び掛かりそうな肉食獣の如き雰囲気を纏っている。命……と言うか、今更だが貞操の危機を感じて、また、その他諸々のダメージを受けて。静雄はびくりと涙目になって震えた。

「じゃ、遠慮なく
  ――いただきます☆」




翌朝になっても、部屋から一向に出てこないオリジナル個体たち(父母という設定である)に、痺れを切らせたのはサイケだった。

「――パパ…はどうでもいいけど、ママは?!」

どたんばたんとリビングのソファの上でジャンプしたりのたうち回るサイケの横で、まだうとうと気味の津軽が鬱陶しげにサイケのヘッドホンを奪い取る。「あっ、ちょっとつがるなにやって」「うるさいから没収」など何だかんだで騒がしい二人を、更に鬱陶しげに見守る(?)のは、日々也とデリックだ。

「――はぁ…うっせぇな朝っぱらからビービービービー…」
「だから何度も言っているが、デリック。君の言葉遣いは些か乱暴と言うか粗暴と言うか。とにかく俺のフィアンセとして相応しい言動を心掛けてくれないか?」
「だぁれがフィアンセだ、この妄想変態王子野郎。」
「な、ッ――?!デリック!君のネーミングセンスは常々思ってはいたがやはり素晴らしいな!だが俺としては31個前に君が言い放った“こんの…っエロ王子…”が物凄く脳裏に焼き付いて忘れられないと言うか脳内でリフレインしっ放しと言うか寧ろもう一度聴かせアッ―!!」
「だーかーら突っ込み所を統一しろよ手前はぁああ!」

こちらはこちらで騒がしく、ピリパリとヘッドホンから伸びるピンクのコードを波打たせながら、デリックは日々也に対して口ではとても言い表せられないようなと言うかとどのつまり暴力を振るうのであった。








「―――何だか騒がしいなあ…」
「…ひっ、く……いざぁ…も、やめて……」
「何言ってんのシズちゃん。まだあのプレイしてないじゃない。」
「……くるし…し、ぬ…」

――肝心の二人は、と言うと。
まだベッドの中…と言うか、上だった。
ベッド上で、静雄はとても他人には見せられない恥ずかしい体勢を強いられており、まるまる一晩中続くこれらの“プレイ”によりくたくたになって抵抗する力すら残っていなかった。臨也が縄を引っ張ると、静雄の身体は面白い程従順だった。

涙や涎や汗やらアレやらコレやらでぐしゃぐしゃに濡れそぼったシーツの上で、静雄はもう諦めの境地に達していた。

「――さあ、シズちゃん……たくさん“ハジメテ”しようね?」


あわよくば、誰かがこの部屋の扉でも壁でも蹴破って、自分を救い出してくれやしないかと。

――そんな天文学的数値に等しい確率に全力で祈りながら。











20110602
今までこのシリーズを読んでくださっていた方は気付いているかも知れませんが、サイケと津軽の口調が少し成長…してるんだっ(^O^)


20110620
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