折原家の日常A








イザ兄、誕生日おめでとう。
今年でとうとうイザ兄も四捨五入して三十路突入だねっ!あは☆

クルリ、マイル

P.S.
クル姉と一緒に、ささやかだけどプレゼントを用意しました。イザ兄、とってもとっても喜んでくれると思うから、早く家に帰って楽しみにして待っててよね!!






「――…あいつら…」

手の中の手紙を、丁寧に折り畳む。池袋に居を構える探偵である彼、折原臨也は、双子の妹たちから手渡されたそれを近くのクズかごに投げ捨てようとして――手を下ろした。

そして何を思ったのか、クスリと口角を上げて、私服のコートのポケットにそれを入れ込んだ。

「………誕生日…ね。」

休日の池袋の街を、買った服を抱えながら家路に着いた。



  ・・・・・


じゅうじゅうと、肉の焼ける良い音がキッチンに充満する。腰エプロンを身に付けた臨也は、不器用な静雄に代わってこうして夕食を作る事などザラだ。しかし、どうにも先程から気にかかっているのが、リビングにいる静雄の事だった。

――そういや俺の誕生日、シズちゃんに言ってなかったっけ…?

「…よっ!」

フライパンを操ると、肉が綺麗にひっくり返って元の鉄板の上に戻る。その片手間に皿を取り出して、静雄を呼びつけた。

「何だ?」
「え、っと……レタス洗って千切って盛り付けといてくれる?」
「あー、分かった。」

すんなり了解した静雄は、冷蔵庫からレタスを取り出して葉を千切り始めた。ボウルに冷水を流しながら、葉を洗っていく。

「…………ふうん。」

一緒に暮らし始めたとき、臨也が散々仕込んだ手順。あの時の静雄は本当に何も出来なくて、一歩間違えれば自分が殴り飛ばされるか台所が無くなるかという一触即発の状態の中で何とか教え込んだのだ。

――そういや…あの頃は今より喧嘩も多かったなあ…。でも実は、俺が寝たあとこっそり抜け出して一人で特訓してたんだっけ……。

「……ホント、健気で可愛いんだから…。」

隣で真剣にレタスを盛り付けるエプロン姿の静雄の方を見て、臨也は自然に頬が綻んだ。

「シズちゃん、眉間にしわ寄ってるよ。」
「五月蝿ぇ!…出来たぞ。」
「おやおや、いつの間にこんなに出来る子になってたのシズちゃん?」

火を止めて、大げさなジェスチャーを交えて二つ並んだ皿に肉を乗せれば、静雄がホッとした表情を浮かべた。

「ま、まぁな…俺だってこのくらいは…」

照れ隠しなのか、視線を泳がせる静雄に、臨也は微笑みながらその頭を撫でる。

「…おい…餓鬼じゃあるまいし」
「ううん……ありがとう、手伝ってくれて。」
「……?」

怪訝そうな表情を浮かばせた静雄を余所に、臨也は皿を持ってその場を離れた。

「冷めないうちに、食べようよ。」









「…臨也」
「なあにーシズちゃん。」
「……風呂上がった…から、先寝てる。」
「んー。」

タタンッ、と軽快にキーボードを叩きながら、臨也は後ろから聴こえる静雄の声に適当な相槌を打ってパソコンを閉じた。今日の分の取引を終えた臨也は、閉じられたドアを振り返って、少し疲れを滲ませた表情で微笑んだ。

「……結局、今日が誕生日だってこと言えなかったなあ。」

だが、静雄に自分の誕生日を打ち明けた所で何かを用意してくれるようなことは期待していなかった。今日が休日で、二人の時間が多く取れたこと。――それが臨也にとって、何よりの誕生日プレゼントだった。

部屋の電気を消そうとして、ふと今朝妹たちから渡された手紙のことを思い出し、壁に掛けてあるコートのポケットを探ってそれを引っ張り出した。

「……結局、何だったんだこれ。」

ふむ、と一考して、臨也はそれをデスクの引き出しにそっと入れた。











風呂から上がり、頭にタオルを被ったまま、臨也は寝室へと向かった。

予想通り、静かな寝室のベッドには、寝間着に身を包んだ静雄がすぅすぅと寝ていた。

――…今日は寝かせてあげなくちゃ、かなあ…

いつもなら何があろうとお構い無しに押し倒すのだけれど、今日は何となく、そんな気になれない。

蒼い月光が、カーテンの閉められていない窓を透過してベッドや静雄の輪郭をくっきりと浮かび上がらせている。真っ暗な筈なのに、この部屋の空気そのものが色を持っているような透明感。

ベッドに腰掛けると、ギシリときしんだ。するとその時、

「?!っうわ!!」

寝ていたと思っていた静雄がこちらに腕を伸ばして胸ぐらを掴み、ベッドに引き倒してきたのだ。視界が反転して背中から何処までも柔らかいベッドに沈んだかと思えば、今度は物凄い力で身体が締め付けられた。

「うっ、ぐ、くるし…!シズちゃ…」
「――おめでとう」
「は?」
「誕生日、おめでとう。」

――え?

注意しなければ聞き取れない程のか細い声で。しかし、それは臨也にしっかりと届いていた。

心に、届いていた。


「……あ、りがとう…。」
「………」
「…………」
「…………」
「……………」
「……………何か言えよ。」
「い、や……っていうかシズちゃん何やって…っ!」

首筋に埋まっていた筈の静雄の頭が下にずれて、視界が不明瞭な中下半身に僅かな違和感を感じる。そうこうしていると、静雄がこちらのズボンを下着諸共引き下げてしまった。

「――う、嘘ぉ!?」

――あのシズちゃんが!!頼んでも頑なにしてくれないあのシズちゃんが!!自ら!!俺の…

空気に晒されたそれに、静雄の手が軽く触れた。

「……勃ってんな…」
「そりゃあシズちゃんにそんな事をされれば誰だって元気になるでしょ。」

いよいよ怪しくなってきた行為に、臨也はゴクリと生唾を飲み込みながらそう言った。お互いが妙に緊張した空気の中、いきなり生温かいものにそれが包まれた。

―――まさかッ!!

「シズちゃんっ!?」
「ふ、っン……ぁ、今日だけ…。」
「無理しな…っくぅ……!」

――思ったより上手いじゃんこの野郎!!

臨也の息子をくわえこむ静雄という、普段は目にしない倒錯的な光景にくらみ、その気もちよさに思わず声が漏れる。
臨也は傍のカーテンを引いて月明かりを遮断し、必死に奉仕してくれようとする静雄の頭を掴んで自分のものを吐き出させた。

「っげっほ!…ごほっ、はぁ…」
「――初心者が無理しないの!…ったく…、いつも通りで良いのに…。」

ベッドに横たわる臨也は、自分に覆い被さる静雄の頭をわしゃわしゃと撫でながら言った。しかし、

「……それじゃダメだ。」
「え?」
「それじゃダメだ。今日は…手前の誕生日だから、その………」

――ああ、そう言うことか…。

静雄の反応に、ある事に気が付いた臨也は、目を閉じてククと笑った。そして、何故か泣きそうな顔をして必死な様子の静雄に口付ける。

「――…ん…」
「……シズちゃん、確かにそれは嬉しいんだけどさ。やっぱり負担が大きいから…、最初から無理はしないで欲しいんだ。…分かった?」
「………わかった」

そう返事をしたものの、まだ何処か不服そうな静雄に臨也は微笑んだ。そして、体勢を入れ替えて静雄をベッドに埋める。

「………なら、俺のお願いを聞いてくれる?」
「……え?」

「聴かせてよ…シズちゃんの声。いつもみたいにガマンしちゃダメだからね?」

ニヤリと笑う。
下でごくんと唾を飲み込んだ静雄の上に、覆い被さった。














「……今回は流石に、あいつらに感謝しないとな…。」








ハッピー・バースデー


20110506



降臨祭……!のつもりが大分遅くなりました;;臨也誕生日おめでとう!!


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