折原家の日常@







「臨也、コーヒー煎れたぞ。」
「……」
「……おい、手前…」
「ん?なに、シズちゃん。」
「なに、じゃねぇよ、コーヒー煎れたっつってんだろ。」

朝から、臨也は凄く大人しかった。厳密に言えば昨日からか…。何せ、昨日家に帰ってきてからずっとあんな調子だ。腕を組んで、酷く何か悩んでる。こちらから話し掛けても上の空で、今もコーヒーを口に運ぶ動作すら危なっかしいことこの上ない。
今朝の臨也は、珍しく静雄が目覚める前にベッドを抜け出していた。いつもの温かさを感じられなかったことに少しだけ寂しさを覚えつつも、臨也の気味悪さがそれを上回っている。

……理由を聞こうにも、自分が直接聞くのはハッキリ言って恥ずかしい。嫌だ。間違ってそんな事を聞いた暁には、

『えぇ?なに、シズちゃん…旦那さんの心配?俺って愛されてるねぇ…』

とか言い出すに決まっているのだから。

瞬間沸き起こった殴りたい衝動をぐっと堪えて、洗濯をしに行こうと台所を離れたときだった。

「ねぇシズちゃん。
 ……子供欲しくない?」

ゴン


「―…っ、はぁあーッッ?!」

台所から廊下に続く扉を開いた所で、ドアの上の出っ張りに額をぶつけた静雄は、痛みを感じないまま声のした方を振り向いた。

「っこ、こど…子供!?」
「そ。子供。」

ズズ、と静雄の煎れたコーヒーを啜りながら、臨也は何でもないように復唱した。対して静雄は、脳内で盛大なパニックに陥りかけていた。

「…よ、養子…とかか?」
「はぁ?まさか。俺たちの間の子に決まってるでしょ?」
「っ!!」

――生物学上無理だろうが!!

そんな台詞が静雄の頭を駆け巡る。心臓が忙しく、顔が熱い。その場に硬直したまま、微笑む臨也をじとりと見詰める。

また、悪質なからかいだろうか。

「――いや、本気で言ってるんだよ。俺はいつだって本気だ。」
「っ来んなよ……」

立ち上がってこちらに近付いてくる臨也に、弱々しい抵抗の言葉が口をついて出てくる。しかし、既に臨也の紅い眼に捕らわれてしまっていた。

「……ね、子作りしない?」
「んっ、ちょ…」

ちぅ、と小さく唇を啄むように吸われ、それだけなのに腰が砕けそうになった。多分、目の前の男がいけないのだ。先程から、その放つ色香が尋常じゃない。こんなとき、…ああ、こんな変態野郎でも外見は綺麗なんだよなと思い知らされる。

そんなことを考えていたら、あっという間にソファに押し倒されてしまっていた。

「ば、馬鹿かお前はっ!朝っぱらから…」
「シズちゃんよりは頭良いと思うなぁ〜。」
「そう言うことじゃ…」
「なーんだかんだで、抵抗一つしてないじゃない。自覚してないだけで……シズちゃん実はノリノリなんじゃないの?こ・づ・く・り☆」
「――ころす!!」

ぶぉん、と静雄が投げ飛ばしたコーヒーカップは、寸分違わず臨也の眉間に命中する筈だった。しかし、それを臨也は間一髪でするりと避けてみせる。カップは虚空を舞い、ガチャンと床に飲み残しのコーヒー諸共飛び散った。

「あっは、元気な奥さんだなぁ。」
「誰がッ!」

乗り掛かってきた臨也の手が静雄の頬を挟み込む。そうして紅い瞳がこちらを抉るように覗き込んでくる。ただの下心だと思っていたが、違うのだろうか。その眼差しは、いやに真剣で。

「……ぁ、…」
「…もしかしなくて、奇跡が起こるかも知れないよ?」

そう言って不敵に笑った臨也の瞳に、釘付けになる。

が、

「――いや、無理だろ。」

ぐにい、と目の前の頬を摘まんで、現実に引き戻した。――ついでに、いつの間にか下着の中に侵入していた臨也の手も引き抜いた。




  ・・・・・


「――お前は結局そればっかかぁあああ!!」
「シズちゃん、下ろしてー!」
「るせぇこの変態!手前の思考回路は一体どうなってんだ?ぁあ!?」
「……シズちゃんへの愛と性欲、と性欲?」
「聞・く・なぁ!!」
「ぎゃーっ!!投げな…どぅふっ!!」

最早戦場と化したリビングルームには、ゴジラのような勢いで旦那を投げ飛ばす静雄の姿があった。そして、それをドアの影から見守る人間が二人…。


「おお!良い感じにイザ兄のやつヤられてんじゃん!」
「…嫁(静雄さん)…憧(かっこいい)…」
「あのまま静雄さんに掘られてくんないかなーイザ兄。」
「……無(ナイナイ)…」
「それにしてもまあ、良ーい感じに敢えて空気読んでないよねー、イザ兄!」
「…呆(サイテー)…」
「まっ、楽しいから良いけど〜…」
「……転(それより)…兄(兄さんの)…」
「あ!そうそうそれそれ!!5月4日がイザ兄の誕生日だって静雄さん知ってるのかな?お知らせに来たらこれだもんね!?朝っぱらからお盛んだね!!??」
「…静(騒がないの)…」

眼鏡に三つ編みおさげの少女が、瓜二つの顔をした短髪の少女にぺちりと額を叩かれて黙り込んだ。何処と無く雰囲気が誰かに似たその二人の少女は、音を立てずそろそろとマンションの部屋を出る。

一方で、その部屋の住人である新婚の二人は、それに気付いているのかいないのか、引き続き同じようなやり取りを繰り返しているのであった。



「……ヤりまくってたら出来るんじゃないの?子供…。」
「お前なぁ…」
「あーッ!勿体無いよねぇ……折角俺の奥さんはこんなにも可愛いと言うのに。」
「ばッ!馬鹿か手前はっ!!」
「シズちゃんは欲しくないの?俺との子供。」
「………………。」
「……。」
「…………………ほ、しぃょ…」
「え?」
「五月蝿ぇな!!もう良いだろうがこの話は…!」









20110502




久々のまともな更新が、新婚パロであほの子イザヤになってしまい申し訳ありません…。
久しぶりに書いたら見事にカオスりましたorz
やっぱりブランクあると辛いです…

頑張って取り戻しつつ更新していきますね(^O^)
楽しかった//


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