うぇるかむとぅまいほーむ!




家族が増えた。

「初めまして、デリックです」

目の前に現れたのは、静雄そっくり――と言うか、そのものだった。背丈も、顔も、声も何もかも。ただ、特徴的だったのはその身に纏う白のスーツとショッキングピンクのシャツというコントラストと、ヘッドフォンから伸びる同じピンクのコードだ。――静雄は、その姿を見るや否や言葉を無くし、後ずさっていた。

――臨也の野郎…また変な奴を作りやがって…!!

「あのー、判子…貰えませんかね?」

デリックと名乗った青年の後ろから、細々とした声があって静雄は我に返った。提示された場所に判子を押すと、そそくさと帰っていく業者の社員。

一方静雄は、先程から玄関に立っている“荷物”の方をあまり見ないようにして退散しようとする。しかし――


「――待って、」
「っうわ…!?」

ぐいん、と襟首を掴まれ引き戻される。嫌嫌後ろを振り返れば、やはりそこには自分の顔が。静雄は青くなって掴まれた服からその手を引き剥がそうと躍起になった。

「っや、放せっ!」
「貴方の名前は何ですか?」
「あ!?」

「やあやあ!騒がしいと思えば……デリック、やっと届いたみたいだねぇ!」
「!っ臨也」

臨也の声がして、静雄は怒りを忘れすがるような声でその名前を呼んだ。しかし、廊下の奥から現れた彼は何をするでもなく、ただこちらに近付いてにやにやと笑っているだけだ。

「シズちゃん……君が本気を出せばそんな拘束、直ぐに解けるでしょ」
「殺すぞ!」

それをしたらこのデリックごと破壊しかねないと分かっているから、出来ないのに。
そして――臨也は何処までも臨也だった。

「デリック、俺の名前は分かるね?」
「折原臨也」
「うんうん、上出来。あ、因みにね、デリックはサイケと同じシリーズではあるんだけどほら…見ての通り頭身は俺たちと変わらないんだ。」
「臨也、この人、名前は?」「ん?…興味があるのか?」
「―……少し」

臨也の表情が若干固くなる。同時にデリックの拘束も解けて、静雄は素早く臨也の後ろに隠れた。

「っシズちゃん?どうしたの急に可愛くなっちゃって」
「黙れ馬鹿!」
「……しずちゃん?」

きょとん、とした表情で、自分そのもののデリックが小首を傾げる動作を見て、静雄は少しびくりと震える。先程から、デリックの視線が自分にしか注がれていない。臨也もそれに気付いたのか、静雄の手を握ってきた。
とくん、と心臓が跳ねる。

「っいざ…」
「この人は平和島静雄だよ、俺の大事な人だから…デリックは触っちゃダメだ。」

そんな臨也の台詞を聞いて、耳が熱くなる。ややあって、

「……分かった」

とデリックが頷いた。


  ・・・・・


「でーりーおーっ!!」
「デリ雄じゃねぇっつってんだろうが!俺の名前はデリックだ!」
「デリック…おちついて」

ぎゃあぎゃあと喧騒が部屋中に響き渡る休日。エプロンを身に付け掃除機を掛けていた静雄は、リビングの状況に「…はぁ」と溜め息を洩らした。

臨也の怪しい特注品であるデリックがこの家にやって来てから、1ヶ月が経とうとしていた。サイケや津軽もすっかりデリックに馴染み、一方のデリックも大分周囲との付き合い方や一般常識を身に付け始めている。
微笑ましいのやら、悩ましいのやら…。
静雄はひとまず寝室の臨也を起こしに、その場を離れた。




「あのねあのねでりお!」
「だからデリ雄じゃ…もういいや」
「でりおは、だれといっしょなの?」
「……あ?」
「さいけはね、ちゅがるとずーっとずーっといっしょなの!」
「……」
「ねーっ、ちゅがる?」
「…うん」
「俺、は…」
「でりおにはいないの?」
「……ああ」
「デリック、さみしい?」
「…んな顔すんなって津軽」
「じゃあじゃあ!だれとずーっといっしょにいたい?!」

デリックの頭には、一人の姿しか浮かばない。キラキラとした目でこちらを見上げるサイケの頭を撫でたあと、独り言のようにこう答えた。




  「……日々也…」





サイケと津軽は顔を見合わせた。デリックは笑って、二人の頭をわしゃわしゃと撫でるが、津軽は気付いていた。その時のデリックの表情が、とてもとても――寂しそうだったことに。





20110226






20110327
拍手から移動

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -