2月14日 前





2月14日 朝。

臨也はリビングのソファに腰かけ新聞を読みながら、先程から脚を頻繁に組み替えてそわそわと落ち着きがない。その隣では、サイケが積み木を積み上げて遊んでいるが、いつも一緒にいる津軽の姿はそこには無い。

サイケは、三角の形をした積み木を、四角の積み木の上に置き、そして下ろし、また別の積み木を乗せ、そして下ろし――と、臨也とサイケ、二人して全く無駄とも言える動きを先程から延々と繰り返している。
そんな中、

――ガチャ

「「!!」」

ドアが開く音がして、臨也とサイケは同時に顔を上げた。臨也はパシンと新聞を閉じ、サイケは――臨也を真似たつもりなのだろうか――積み木をカチンと鳴らしてテーブルの上に置いた。

「……サイケ」

ドアの向こうから現れたのは、金髪に蒼い模様の着物を着た、大人しい津軽だった。恐る恐る、といった体でこちらを覗き込むようにしている。
臨也は―――落胆し、力無くソファに横になった。
一方で、

「ちゅがるぅーっ!」
「っ!さ、さいけ…おもい…」

その姿を見るや否や、文字通り、むぎゅっと津軽に抱き着いたサイケは、津軽がそう言うのもお構い無しにその頬に頬擦りを始める。
何やら、津軽は、その無理矢理な体勢による苦しさとはまた別に、もじもじと恥ずかしそうにしている。後ろ手に何かを隠しているようで、しかしサイケはそんなのお構い無し!と先程から津軽に抱き着いたまま離れようとしない。

見兼ねた臨也は――若干嫉妬心を露にしながら、「…いい加減離してやりなよ」とサイケを諫めた。

「ええーっ!ぱぱのけちっ!!まだちゅがるとちゅーしてないもんっ!ちゅーしてからでいい?」
「絶・対・駄・目・だ!!」

――アホだ、想像以上のアホだこいつ!そして腹立つ!!

ギリリ…と歯軋りしながら臨也は、テーブルの上のリモコンを手にとって、テレビをつける。ソファに座り直し、前屈みになって膝に肘を突き、不貞腐れた表情でサイケたちを見遣った。

「サイケ……これ」
「んー?なぁに?これ」
「……チョコ、だよ」
「えっ…!ほんとに?」
「バレンタインデーは、す…すきなひとに、チョコわたす日、だから…」
「じゃあ、ちゅがるはサイケのことすき?」
「す
………はずかしい…」
「もーっ!ちゅがるだいすきっ!!」
「ひあ!さ、サイケっ」



めきゃり

机の上の新聞を思わず握り締めてしまった。

――ムカつく…!!

津軽たちのプログラムをいっそ初めからやり直してやろうかと思うほどに、今日という今日は腹が立った。

静雄は何処だ。
自分は今日、


「―――シズちゃんからチョコをもらえる予定だったのにーっ!!!」


悶絶する臨也を尻目にして、仲良しサイケと津軽は、チョコレートの包みを開いてお互いにそれを食べさせていた。

「あーん…ん、おいしい!ちゅがる、おいしいよ!」
「よかった…あ、あとね――パパ、」

とてて、と津軽がソファで項垂れる臨也に駆け寄り、とんとんと肩を叩いてくる。はっとして、想い人そっくりのその顔を見れば、津軽は蒼い目をぱちくりさせて手を口元に翳した。
――どうやら内緒話のようだ。

臨也が津軽の等身に合わせて僅かに身を屈めると、津軽が耳打ちをしてきた。

(あのね、ママが、パパに用事があるから、ねる部屋にきてほしいんだって)

「…………まったく…仕様がないなあ…」

柔らかく。津軽の頭を撫でたあと、臨也は立ち上がってリビングを後にした。


20110220







20110327
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