物足りない ※R15 「っあ゛…くそっ!も、ムリ…むり…だ」 「…まだまだこれからでしょ?…ね?」 「ゃ、も、おかしくな…っ!」 恥ずかしくて腕で顔を隠せばあっさりと絡み取られて、一方では広げられた脚を、更に持ち上げられた。無理矢理な体勢と、苦しいキスとで何もかもぐちゃぐちゃになり、本気で頭がおかしくなりそうだった。 極めつけに「愛してるよ、シズちゃんの全部」なんて臨也が言うものだから、刺激を敏感に拾ってしまい、更に追い詰められてしまった。 「んぅ…いざ、や…!」 ・・・・・ 「吐き気がする。」 なんて言ったのが全ての始まり。目が覚めたとき、何だかお腹の奥の方から気持ち悪い感じがして、静雄はむくりと起き上がった。 まだ横に臨也が寝ていて、静雄は起こさないようにベッド脇のシャツを取り上げ、そっと足を下ろした。素肌に、先程まで冷気に晒されていたシャツの生地が冷たくて一瞬身震いをする。 辛うじて下着は身に付けていたので、そのまま立ち上がろうとした。 「…ん、シズ、ちゃん…。」 そのとき、寝ていた筈の臨也が目を擦りながら、腕を掴まえてきた。 「いかないで…」 「……行かねぇよ。」 きゅう、と心臓を掴まれたような心地がする。臨也はいつもこうだ。人の領域に土足で上がり込んで、大事なものを掠め取っていく。 …いっそ、抉り込んで深く深く、痕を残してくれれば良いのに。 ――そうすれば、臨也に触れられる度にいちいち戸惑って、心臓がこんなに忙しくなることも無いだろうに。 「………」 「どうしたの?」 「…吐きそう、なんだ」 「…え?つわり?!」 「――な訳ねぇだろうがッ」 「あいたッ!」 ゴツン、と頭を殴る。涙ぐみながらたんこぶを擦る臨也を一瞥して――再び競り上がってきた気持ち悪さに、静雄はその場にしゃがみこんだ。 「――やっべ…本気で気持ち悪くなってきた…」 「トイレ行く?」 僅かに、こくんと頷いて、しゃがんだまま床を見詰めていた。すると背中にふわりと何かが被さり、視界に入ったその端を見れば、それは毛布だった。 「さ、行こ。」 毛布ごと肩を抱えられて、立ち上がった。 水流と共に、僅かな吐瀉物が流れていく。段々と寒気も襲ってきた。トイレから出て、リビングのソファに、一番暗い照明を付けて二人で腰掛けた。 「……きもちわるい」 背中をずっとさすってくれていた臨也が、「そっか」と言って肩を抱き締めてくる。それに思わず身をよじる。 「……ん、なんだよ…」 「えー?…何となく……嫌?」 「……べつに」 不思議と、吐き気が治まってきた。臨也が肩に頭を置いてきて、その艶やかな黒髪がぱさりと耳にかかって擽ったい。 「…シズちゃんこう言うの好きでしょ。」 「えっ」 どきりとしてそちらを見る。 「でも純粋そうに見えて、意外とむっつりスケベなシズちゃんには物足りないかな?」 「っ…!」 ふぅ、と耳に息が吹き掛けられて、肩が縮こまった。そんな静雄の反応を、臨也は笑って――笑って、そしてまた抱き着いてきた。 ―…何か…今日はいつもと… 少しだけ様子がおかしい臨也に、疑問符を浮かべる。臨也はと言えば、こちらの肩に額を付け、首に腕を回して完全に顔が見えないような体勢のまま、ずっと無言だ。 「……。」 「……」 「…………臨也?」 黙っている事の珍しい臨也。躊躇いがちに呼び掛けてみる。 「……あのね、」 「…ん…?」 「シズちゃんは、俺の事どのくらい好き?」 ――な…っ!? いきなり何てことを言い出すんだ、と顔が熱くなる。思春期の中学生みたいで、いつもの臨也らしいようならしくないような。 でも、何だか元気が無いことだけは確かだったから。 「………そ、うだな…」 何とかして感情を押し込めて、考えるように相づちを打って顔を明後日の方向へ向けると、肩の頭が僅かに動いた。 「答えてくれるんだ」 「こっち見んなよ。」 「あー…シズちゃんのケチ。」 素早く臨也の目を手で覆い隠した。引き剥がそうとされても、その目隠しは外したくなかった。何故なら。 「……すげー、好きだよ」 そんな事を言えば、自分がどんな顔をしてしまうのか解っていたから。――しかし現実は、それは逆の立場にしても同じだったみたいで。 「ぇ…っ…、…!」 まさかそんな直球で返されるとは想像もしていなかったらしい臨也の動転した様子に、静雄は顔が熱くなりつつも心中でほくそ笑んだ。 少し悪戯心が沸いて、にやつきながら目隠ししていた手を外せば、予想通り真っ赤になった臨也の顔が現れた。 「…どうした?」 「―…え、あ、いや…あー、はは…。まさかそんなまともな…あ、いや。そんな答えが返ってくるなんてさ…驚いたよ。」「…へぇ?」 思わせ振りににやにやと相づちを打てば、臨也が肩から頭を離して、ソファの背もたれにどかりと後ろ向きにもたれ掛かった。 「っはぁ〜……いつからこんな子になっちゃったのかなぁ…」 「――手前はどうなんだ?」 「は?」 「だから、臨也はどうなんだよ。俺の事、どのくらい好き?」 「…………………はい?」 ――あ、面白い。今のコイツの表情、すげえ面白い。 ぱさり、と肩に掛かっていた毛布がソファに滑り落ちて、臨也の目線が静雄の剥き出しになったもも辺りに注がれる。 「…し、シズちゃ」 「――なぁ、臨也」 顎をぐいと引き寄せて、キスをする寸前の距離まで近付いた。お互いの顔は近すぎて逆に見えず、唇の先が軽く触れたり離れたりを繰り返している。 そのうち、臨也の上に静雄が馬乗りになって、そのまま上半身を倒しキスを仕掛けた。 「は、っんぅ…!ふ」 「っは、シズちゃん…怒らないで聞いて…?」 「…っん?」 臨也が唇を離し、ぐいと肩をお互いの表情が見える位置まで押し返される。 「――好きだよシズちゃん。一生俺のものにしたい。誰にも渡したくない。いっそ何処かに閉じ込めて、俺の事しか考えられないようにしたいくらいに君が好きだ。」 「…いざ、」 「大好きだよ」 「…っ」 優しい微笑みを見て、急速に愛しさが込み上がってきて。 思わず抱きついた。 恋人同士だった時は、毎日毎日耳が腐るほど聞かされた言葉だったのに、結婚してみると、お互い忙しくてそんな会話も減ってしまって。 何となく物足りなくて。 「…愛してる」 そんな言葉を引きずり出したくなる。 そんな夜。 20110318 すみません!日付を跨いでしまいました… |