Which is true?



ある日のことだった。

静雄は、いつものように屋上で昼食を摂ろうと席を立つ。天気がいいから、結構人居るかもなあと考えつつ、今日は弁当が無いことを思い出し、購買の方へと向きを変えた。

硝子張りの廊下を渡り、階段を降りようとした矢先。静雄の歩みが止まった。

「やぁ。」
「……」

やけに陽気な笑顔を貼り付けてそんなことを抜かす目の前の天敵に、静雄は舌打ちをして踵を返した。

「え。ちょっと…待ってよシズちゃん!」

…うぜえ

後ろからパタパタと追いかけてくる足音が近付くので、歩みを速める。でも、なかなか足音は離れてくれない。仕方なく駆け足になり、――最終的にダッシュになる。

「逃げないでよーシズちゃん。」

余裕綽々といった様子の声色に、とうとう観念したように走りながら後ろを振り向くと、意外にもすぐ後ろにぴったりとくっついて追いかけられていることに驚いた。

「!…てめっ、無駄に速ぇんだよ!」
「追いかけっこって楽しいよねー」

廊下を全速力で駆け抜ける喧嘩コンビに、周囲から好奇の目線が集まっている。二人とも俊足に加え息の切れる様子も無く、臨也に至っては笑顔を貼り付けたまま走っているためとてつもなくシュールな状態となっていた。

「楽しく……ねぇぇ!!」
「っぐ!!」

キュィィィ!と嫌な音を立てながら(本当にした)静雄は急停止して振り返り、追いかけてきた相手に頭を突き出した。

丁度それが鳩尾の辺りで、あまりの早さに流石についていけなかったらしく、臨也は苦しそうに身を屈めた。

「いっ……たぁ…。…ていうかシズちゃん、頭突きって…どうなのかな?」
「手前がいきなり追い掛けてきたりするからだ。」
「だってそれはシズちゃんが逃げるから…。」
「当たり前だろうが!死ね!」

最後に死の宣告をした後、静雄は何事も無かったかのように再び元の廊下を辿る。

「あー…もう絶対ぇいちごクーヘン売り切れてるし、クソ…。」

ぼそりと一人ごちて、若干苛々しながら階段を降りる。
すると、また後ろからどこまでも爽やかな声が聞こえてきた。

「シーズちゃん」

……あいつ殺されてえのか?

些か疑問を抱かざるを得ない程の絡みのしつこさに、静雄は階段の手すりをがしりと掴んだ。

「いざ…」
「これ、最後の一個だったんだけど。」

あまりのウザさに今度こそ一発…いや何発かお見舞いしてやろうと決意して振り向けば、階段の踊り場に立ち、何やら得意気な顔で(いつもか…)臨也が何かを手に持っている。
よく見ると、

「…それ」
「そ、いちごクーヘンだよ」

臨也が得意気に(…いつもか)翳しているのは、静雄の大好きないちごクーヘンだった。しかし、

「あげようか?」
「……いらねぇ」

左右に翳しながら問う臨也に対し、静雄は再び階段を下り始める。

「えー?シズちゃんこれ好きだって聞いてたんだけど。」
「たった今嫌いになった。」

後ろから同じく階段を下りる音がする。……本当に今日はしつこい。

「手前いい加減に…」
「安心してよ、毒なんか入れてないし。」

肩に手を置き耳元で囁かれ、
じゃあ入れる時もあんのかよ!と心の中で突っ込みを入れ、肩の手を払いそのまま無視して食堂へ向かう。

「シズちゃん」
「……」
「おーい、要らないのー?」
「……ウザい。しつこい。気持ち悪い。」
「え、何そのダメ男三原則?」

仕方なく足を止め、臨也に向き直る。

「手前一体何考えてんだよ。」
「え?ご飯一緒に食べたくてさ。」
「は…」

当たり前のように返されたその返答に静雄は言葉を無くした。いつもいつも会う度殺し合い紛いの喧嘩をしている自分と、一緒に……
一緒に?

俺が
臨也と?

「――いや、ねえよ!!」
「えーっ?」

混乱しかけた思考が口から飛び出れば、わざとらしく臨也が驚いた声を上げた。心なしか口元が緩んでいる。……というか、絶対気のせいではない。

そこで、静雄は「ある可能性」に気が付く。
気が付いて―――ムカついた。

「いいぃぃぃざぁぁあやぁぁぁあ!!」

つまり、自分はまた臨也[コイツ]の人間観察材料に使われたということだ。

「ありゃりゃー、バレちゃった?」

クスクスと笑う宿敵の様子に、静雄は自分の推測は間違っていないと確信する。

大方自分の反応を見るためにあんなことをしていたのだ。
何処までも腹が立つ。



――そして、またいつもの日常。




  ・・・・・

「…ふーん、ちょっと顔赤くなってたけど…」
自宅の回転イスに腰かけて、臨也は今日を振り返っていた。

でも…あれじゃ怒ってなのか、照れてなのか、解んないね。

「……やっぱりシズちゃんは、読めないなぁ…」





2010/11/9
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