価値基準なんて十人十色。



※来神
※過去編とは別






俺は頭が良い。
運動神経も良い。
顔もスタイルも良い。

だから基本的に何でも出来るし、それで特に何も困らない。

だけど――人間はそうはいかない。自分の思う通りに動くとは保証されない。小さい頃、それに気付いて、それから人間観察が止められなくなった。

面白いね、実に面白い。

そしてその思い通りにならない人間の筆頭が――平和島静雄。




「何してんの?」

俺は今校舎の屋上に来て、ここで俺を"やり過ごす"はずだったシズちゃんを"迎え"に来ていた。
ベンチに座っていたシズちゃんは、あからさまに嫌そうな顔をして、俺をすり抜け校舎に入ろうとする。

でも、俺はそんなの許さない。

「ねぇ、ちょっと待ってよ!」

腕を掴んで引き留める。
本来の彼なら容易く振りほどける筈なのに、こうして引き留めれば律儀に立ち止まってくれるんだから……。ホント、根がいい奴過ぎて腹が立つよ。

そんな君を好きだっていう俺も俺なんだけど。

「キスだけでもさせてよ」そんな君と恋人同士、だなんて笑えるよね。

「……っ、何言って――んッ」

ああ、もうそういう御託はいいからさ。段階すっ飛ばしていいから、俺は今キスがしたいの。

微妙にいつもより機嫌が悪そうな彼に、いきなり口付ける。

……かわいい

必死に服を掴んでくるシズちゃんにそんな事を思う俺は、やっぱり沸いてんのかなって、思う。もっと攻めたくなる。

精神的にも
肉体的にも――


「っふ、……は!っぁ、てめ」
「………」


シズちゃんは、何だかんだで頭が良い方だ。運動神経なんか最早人間の域じゃないし、顔も、スタイルもいい。

でも、何でもは出来ない。

シズちゃんには、人を操るどころか、人に近付く事すら出来ないんだから。

―――それって結局、俺も同じなんじゃないかなーって思うんだよ。

人を操ろうとするが故に、本当の意味で人には近付く事が出来ないでいる。



でも、本能的に求めてしまうのはやはり人間との確かな"繋がり"で、その対象がお互いだったと言うだけの話で。

それって―――何て非生産的な事なんだろう。

無い無い同士がくっついた所で、何があると言うんだろう。
人間はそれで束の間の安心感を得るけれど、俺たちもそうなのかな……




「ねぇシズちゃん」

屋上に上がって、壁際の人目につかない所に二人で座り込んでいた。話しかけると、穏やかな瞳がこちらを見る。


「……何だよ」
「殺す」
「――っ!」


そして俺は隠し持っていたバタフライナイフを、シズちゃんの顔を狙って壁に突き立てた。
その軌道はシズちゃんの柔らかい頬を掠めていて、そこから赤い血が流れた。

シズちゃんはそんな俺を見て微動だにしないで、ただ少しだけ眉を潜めて機嫌を悪そうにしている。


「どうせ死なねーよ」
「あははっ、そうだね」


パチン、とナイフを閉じて仕舞い込むと、俺は壁に手をついて再びシズちゃんに口付けた。
それに一瞬身を竦めた彼だったけど、やがて背中に手が伸ばされる。

―――かわいいなあ



お互い何もかもが不安定で。ただただ先の見えない孤独な道を歩んでいる。


そこにゴールがあるとすれば、きっと……




君の隣だといいな。







2010/12/12





不器用な、ただ……それだけの。






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