「……」
「ん?どうしたの?」
「何でも…ない」

ぷい、と、顔を背ける。
別に拗ねてなんかねぇ、断じてそんな事は無い筈だ。多分。

いつものように、二人でソファに並んで腰掛けテレビを見ているのだけれど、静雄は先程から"ある違和感"を感じていて、そのせいでテレビの内容に集中出来なかった。

そんな事を気にした所で…とは思ったけれど、段々その理由について考えていくうちに、それがちょっとした事では済まされない問題の様な気がして、静雄は不安になっていた。


――実は昨日から、臨也が全く自分に触れてこないのだ。

前までは、それこそ殺したくなる程にしつこく何かにつけて身体に触ってくるような相手だっただけに、鈍い静雄でも敏感に察知していた。

……しかも、

「――臨也、ちょっといいか…」
「え?…ああデリ雄、どうしたの?」
「話があんだけど…」
「あー…えーっと……」

奥から現れた、静雄そっくりのロボット――通称デリック(臨也はデリ雄と呼んでいるが)に、柔らかな対応をする臨也。話があるというデリックに対し、答えあぐねてこちらを振り返った臨也に、静雄は少しだけもやっとした感覚を胸に覚えた。

「俺はいいから、行ってやれよ」

本心からそう言った筈なのに、どこか棒読みみたいな言葉が口から出た。


  ・・・・・


俺は、多分日々也が好きだ。

ある日、突然俺の目の前に現れたアイツは正に白馬の王子様だった…とにかくそんな感じの印象を受けたし、そんな感じの格好でもある。


「えーと……デリ雄くん」
「デリ雄って呼ぶな。デリックって呼べ」
「じゃあデリ雄って呼ばせて貰うよ、デリ雄」
「二回も言うな!デリックって呼べよ!」

ケタケタと、頭に乗っかった王冠を揺らしながら日々也が笑う。コイツは性悪腹黒で、まるでマスターの臨也みたいな奴だなと常日頃から思う。そんな日々也を好きだと思う俺は、きっと、日々也以上の性悪を好きな静雄と同じくらい馬鹿なんだろう。

でも、とにかくどうしようもないくらいに好きで――

だから――日々也にも、俺をもっともっと好きになって欲しかった。



ぽつぽつと奥から話し声がするリビングの扉を、俺は思い切って少しだけ開いてみた。案の定臨也と静雄らしき人影が、並んでソファに座っているのが見えた。

少し躊躇って、やがて俺は意を決して臨也に話し掛けた。

「―おい、臨也…ちょっといいか?」

ドアの隙間から少しだけ顔を出して、恐る恐る話しかけてみると、やんわりと微笑んだ臨也が、振り返って「どうしたの?」と尋ねてくる。

そのとき、臨也の後ろで静雄の表情が強ばったのが見えたが、気にしないことにした。

「話があんだけど……」

断られることを覚悟してそう言えば、意外にもすんなりと了解した臨也がこっちに向かってきた。臨也が俺を軽く押してドアの向こうに二人で出たあと、俺は気になっていた事を臨也にぶつけた。

「――どうしたら俺、日々也にもっと好きになって貰える?」

その瞬間、臨也の頬に少しだけ赤みが差したような気がした。だけど直ぐに元の表情に戻って、「ええ?」と聞き返しながらにやつき始めた。…やっぱり何か、見た目以上に日々と似てるな、なんて思って、俺も少しだけ顔が熱くなった。

「日々也に…どうしたらもっと好きになって貰えるかって?」
「…うん。」
「そうだな……」

ふむ、と臨也が考え込む。
暫くして、「じゃあ俺と一緒に居ればいいよ」と口にした。意味が解らなくて、思わず聞き返してみたけど、臨也はいつもの笑顔で頷くだけだった。

「俺と一緒に居ればいいんだ」
「何でだよ…俺は日々と一緒に…」
「考えてみなよデリ雄…」
「…デリ雄って言うな」
「――もし日々也が君の事を愛しているなら、君が俺と一緒に居るようになれば、日々也はきっと俺に嫉妬する……」
「……うん」

愛している、という言葉に、少しだけ恥ずかしくなる。ヘッドフォンから伸びるピンクのコードが、ぴりりと波打った。

「そうすれば、日々也はきっと君にもっと執着するようになる。日々也と君はラブラブ…俺はシズちゃんとラブラブ……」
「え?」
「あ、いや何でも無い」

エホン、と臨也がわざとらしい咳払いをして、ポンポンと頭を叩いてきた。…でも、それで本当に日々也に好きになって貰えるなら…。

「――わかった…臨也と一緒に居るようにする」

俺は頷いて、そう決意した。



20110207



つづきます!





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