そんなこんなで、クリスマスにはサンタクロースが良い子の元におもちゃをくれる、という一大イベントを前にして、津軽たちは大はしゃぎ。
ショッピングモールに行ったのもその一環で、サンタクロースにお願いするおもちゃを選ぶためだった。


――そして、クリスマス・イヴ。サイケと津軽にとって運命の時が近付いてくる。

「たのしみだなぁ!たのしみだなぁ!」
「…そうだね」
「サンタさんくるかなぁ?」
「くるよ、サイケいいこだから」
「ああもー!ちゅがるっ、だいすき!」
「…つがるもサイケのことだいすきだよ」

「今は止めろ、二人とも」

臨也がぴしゃりと言い放つと、サイケがしぶしぶ抱き着いていた津軽を離す。それもそうだった。今はイヴのクリスマスパーティーの最中で、ひとしきりの食事を済ませ、ケーキを切り分けている隙に二人の世界に入ってしまったのだから。

最近、二人が仲睦まじく戯れている様子が、だんだん臨也は気に食わなくなっている。自分でそうするようプログラムしたのだけれど、微笑ましいのは初めのうちで、最近では共に過ごす事自体減ってきているこちらへの当て付けのように見えて腹立たしかった。

(俺だってあんなふうにシズちゃんと……)

ちら、と静雄の方を見やると、どうした?といったふうに小首を傾げてくる。

(くぅ…可愛い…ッ!)

慌てて視線をケーキに引き戻し、切り分けたものを小皿に分けてそれぞれに配る。
目をキラキラと輝かせる子供たちと一緒に、一瞬だけ静雄の瞳の奥も輝いた気がする。

…ぷっ、大人気ないなぁ

内心でそう呟きながら、コーヒーと共に甘ったるいクリスマスケーキを胃袋に押し込む。

すると、いきなり目前にクリームのついたフォークが飛び込んできて、口に運ぼうとしていた自分のフォークの動きを止めた。
もしや、と目の前のフォークに沿って視線を向けると、そこにはほぼ無表情の静雄が。

「……はい、あーん。」

ボン

と、何処かで何かが爆発する。
だけど惜しい!何で無表情!?

「ぇえ!し、シズちゃん?」
「何だよ、食わないのか?…俺が差し出すケーキは食えねえっていうのか?あ?」
「後半脅しになってない?…ていうか、いや…まさかシズちゃんがそんなキャラだったなんて……」
「いや、勘違いすんなよ?」

甘いものが苦手なお前への嫌がらせだ、と笑ってみせる静雄。それにきゅう、と胸が締め付けられる。

「……じゃあ、仕返しっ」

ぱくり、と差し出されていたケーキを口に入れると、直ぐ様フォークを持っていた方の静雄の手を掴んで、自分のケーキの中にべちょりと埋めた。

「ああーっ!!何すんだてめぇぇっ!!」

叫ぶ静雄は直ぐにケーキから手を引き剥がし、何て事してくれんだと鋭い目で臨也を射抜く。しかし臨也はそれに動じずに、静かに身を寄せて生クリームまみれのその手を掴んで――舐めた。

「―――ぇ」
「ぅわ、あっま…!」

まさかの事態に口をあわあわとぱくつかせて、手を振り払うことも出来ない静雄は、羞恥に赤くなりながらその行為を見詰める。

「ん…」

まんべんなく手全体についたクリームを、丁寧に、手の、指の輪郭をなぞるようにして舐められていく。

「…っ、い、ざや」

時々ビクッと肩を揺らす静雄に、臨也は内心にやついた。

――感度良好だねぇ…よしよし

今夜"一仕事"終えたらお願いしてみようかなぁ、等と考えていると、流石に耐えかねたのか、手が引き抜かれて静雄が席を立った。プククとにやけながらその背中を見送る。

「さいけ、あーん」
「あー…」
「おいしい?」
「うんっ!サイケもちゅがるにあーんするよ、はい、あーん…」

――ヤバイ!こいつら忘れてた…!
振り返ると、指の先に生クリームをつけて相手に食べさせるという、先程の二つのやり取りを融合させたような光景が広がっており、臨也は頭を押さえた。

「はぁ…こいつらの学習能力はいつも無駄に働くんだから…」

そして、手を洗って帰ってきた大魔神と化した静雄に、臨也は吹き飛ばされてしまうのだった。

  ・・・・・


そろり
そろそろ

ゆっくりと、フローリングの床を進んでいくのは、赤い服を着た―――サンタクロース。

部屋の中に置かれたベッドで眠る子供二人。その真横まで泥棒さながらの慎重さで歩いて行き、手に持っているラッピングされた包みをベッド脇のサイドテーブルにそっと置く。

サンタは暫く二人の寝顔を見詰めたあと、再びそろりそろそろと部屋を出て、静かにドアを閉めた。


「……コスプレ紛いの事まで必要なのか?」

ドアの外で待っていた静雄が、呆れ顔で腕を組みサンタ姿の彼に質問する。

「やだなぁ、気分だよ気分。子供の夢は壊したくないじゃない」

パチン、と片目を瞑ってみせるサンタ服を着た臨也は、静雄の肩を叩いてリビングへと向かう。

溜め息を吐きながら後を付いていく静雄は、何だか疲れた様な気がして、ソファに座った人物に後ろから抱き着いていた。

「ぇ!し、シズちゃん!?」

そのまま床に膝を突き首筋に頭を乗せて、暫く黙ったままじっとしていると、臨也の手が自分の頭をそっと撫でる感触がした。

「……今日は甘えん坊さんだね」
「…うるせえ」
「………ねぇ?」
「今日はしねえよ、…明日なら」
「えー」
「何だよ、不服かよ」
「だってさ、今日のこの雰囲気で何にもないって地獄だよ耐えられな――って、明日なら?明日ならいいの!?」
「う、うるせぇって…」
「ああもう!シズちゃんっ、大好き!」

むぎゅう、と子供たち顔負けのハグを身体を捻って静雄に贈ると、彼は可哀想な程に真っ赤になってしまった。
自分から仕掛けておきながら、こういう押しに弱い所が堪らなく可愛いと思ってしまう自分って、重症なんだろうなぁ……と一人物思いに耽る臨也であった。



それからあと、二人で寝室へ戻りベッドに向かった。
先に眠っていた津軽とサイケを二人で挟む様にして布団に潜り込む。

静雄が津軽の横に入ると、寝返りを打った津軽が胴にしがみついてきた。小さな手が必死に、すがるようにして掴んでくるその様子に、思わず破顔する。

「…何笑ってんの、シズちゃん。可愛いんだけど」
「…気色悪い事を言うな」

ベッドサイドの電気を消して、本格的に眠りに入る。

「あー……サイケが締め付けるよ〜…」

しかし、それは臨也のうめき声によって阻まれ、静雄は眉を潜め「うぜぇ」と一言。

「…あのねぇ、シズちゃんは平気かも知れないけどさぁ……こいつらの力って人間以上に強いからね?」
「そうだったのか?」

真っ暗闇の中、二人の会話が部屋で反響する。

――今頃、殆どの家庭で真夜中に子供たちの元へサンタクロースがやってきているのだろう。彼らは幸せを運び、家庭に笑顔と希望をもたらす存在として、人々に愛され続けている。

窓の外には、こんこんと雪が降っていた。

きっと、彼らは明日幸せで、暫くすれば子供たちの笑顔を乗せて、新しい年明けを迎えるのだろう。






Merry Christmas!!


2010/12/25

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