囮捜査はほどほどに 新米刑事の受難 [4/4] 三田村進(みたむらすすむ)、享年33歳。 三田村は今から三十年ほど前に死刑執行された凶悪犯で、三田村が犯罪を重ねていたのは二十歳前後、逮捕されたのは二十歳を数ヶ月過ぎた頃のことだった。 逮捕後、直ぐさま裁判にかけられた三田村だったが、情状酌量の予知は認められなかった。三田村は強い殺意を抱いて残虐な方法で被害者を殺害しており、被害者九名は全て、自分の父親と同年代の男性ばかり。 情状に関しては子供の頃に継父から受けていた性的虐待に焦点が当たったが、いかんせんその殺害人数とあまりにも残酷すぎる殺害方法を考えると情状酌量の予知は無かった。 『三田村。いいからその男を離せ』 三田村が憑依した遠藤は、中年男性の首筋に刃物の刃先を宛てている。男性は児童虐待の逮捕歴がある元小学校教師で、教え子の少年を毒牙にかけていた。 三田村の被害者全員が同性愛者で、児童虐待の逮捕歴があった。三田村は子供の頃に受けた性的暴行のせいで自分が同性愛者になったと逆恨みしていて、少年愛者で性犯罪歴のある男に制裁を加えていたのだ。 しかし、例え性犯罪者だとしても既に罪を償った(刑期を終えた)者に手を掛けるのはお門違いだ。中には再犯を重ねている者もいたが、完全に更正した者も当然いて。人違いで命を落とした者までいて、三田村の犯行は極刑を与える他なかった。 『三田村、お前はもう死んでいるんだ』 『はあ、俺が?馬鹿言え』 三田村は罪のない憑かれ体質の同年代(犯行当時)の男性に憑依して、近年、再び犯罪を重ねていた。その事実を突き止めて動き出したのが特殊能力捜査班で、今回、遠藤が囮となって三田村に憑依されたお陰で、現場を取り押さえることが出来たのだ。 今回の事件を受け、進藤は児童虐待の逮捕歴のある元犯罪者の身辺を探っていた。三田村が手を掛けそうな元犯罪者に張り付いて捜査していたところ、三田村の霊が現れた。 直ぐさま遠藤が現場に呼ばれ、捕物劇が始まった。被害者の首筋に刃物が宛てられた時には肝を冷やしたが、なんとか遠藤が憑依した三田村を逮捕することに成功し、再び逮捕された三田村は、今度こそ観念したのか露と消えたのだった。 この逮捕劇に於いて進藤は、とても重大な役所(やくどころ)を担っている。進藤がいなければ霊体の三田村を見付けられなかったし、迷宮入りしてしまう事件解決にはならなかった。 結果こそ事件解決に至ったが、実際は迷宮入りした事件として扱われてしまう。それでも、再び犯行が行われることは恐らくなく、そう考えれば万事解決だと言っていいだろう。 最後にお祓いが出来る刑事により、三田村の霊魂は鎮められた。これにて一件落着……と行きたいところだが、進藤は自分が許せなかった。 例え事件解決のためとは言え、全く霊感がなく霊に関して無知な遠藤を巻き込んでしまった。しかも、逮捕時の混乱の中で、遠藤は酷い怪我まで負ってしまった。 だがしかし、今回の捕物劇に於いて遠藤もまた重大な役所を担っていた。三年間はお茶汲みだと言われて配属された刑事部だったが、遠藤は配属されて数週間で、がっつり犯人逮捕に貢献していたのだ。 「守れなくてごめん……」 遠藤の右手の甲に貼られた大きな絆創膏に口づけて、進藤は静かに病室を後にした。 |