囮捜査はほどほどに
新米刑事の受難
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「……眠ったか」
 しっかり抱き留めた遠藤の小さな体から力が抜けるのを感じた藤堂は、ホッとして遠藤を横抱きに抱き上げた。
「ちょ、班長!狡いですよ、お姫様抱っこだなんて……」
 まだ俺もやったことがないのにとぼやく進藤を尻目に、
「ちょ、置いてかないでくださいよ!」
 特殊能力捜査班の面々は現場を後にする。

 遠藤は真面目な勤務態度や警官としての能力を買われ、早々に刑事部に配属された。実は彼の変装技術(コスプレ)や彼だけが持つ特殊な能力のお陰でもあるのだが、その話はまた後ほどするとして。

 遠藤が籍を置いているのは捜査一課の中でも難事件を扱う『特殊能力捜査班』という部署で、言葉通り、科学では証明出来ないような特殊な事件や迷宮入りしてしまった事件を捜査する部署だ。
 捜査にあたる刑事たちはこぞって科学で証明出来ない特殊能力、つまりは超能力を持っており、その能力を駆使して事件を解決するのが彼らの仕事である。

 例えば、特殊能力捜査班の班長でもある警部補の藤堂は心理学のエキスパートで、犯人の心理を巧みに分析して、犯人逮捕に導いて行く。俗に言う催眠療法の達人でもあり、単純な性格の遠藤などは、いとも簡単に暗示に掛かってしまう。
 実は先程の藤堂の遠藤への対応がこれで、藤堂は催眠と同時に遠藤が負った怪我の痛みを和らげる暗示も掛けておいた。

 藤堂浩文(とうどうひろふみ)、28歳。

 藤堂は、中卒のノンキャリア組ながら、若くして捜査一課の特別班を任されるまでになったキレ者だ。そんな藤堂も学生時代は酷く荒れていたようで、高卒の資格も高校を三日で中退後、個別に取得したような有様だった。
 しかし、警察官になった藤堂は早々に頭角を現して、28歳にして捜査一課の班長を任され、現在に至る。この昇進の早さは新人の遠藤以上で、それもこれも藤堂の高い統率力と能力を見込まれてのことだ。
 その統率力も、高校を中退後に藤堂が立ち上げた黒彗(クロエ)、別名『黒い彗星』と呼ばれる不良グループのリーダー時代に培われたもので、因みにその不良グループは現在もまことしやかに活動している。
 ファッションブランドに同じ名称のものがあるが、クロエとは元々はヨーロッパ系の女性の名前で、黒彗のチーム名は彼の母方の曾祖母の名前に由来している。

 藤堂の曾祖母はイタリア系フランス人で、少なからず異国の血を引く藤堂は整ったとても綺麗な顔をしていた。その長身からモデルをしていた経験もあり、刑事となった今は、婦警を始めとする女性人気も高い。
 しかし、藤堂本人は同性愛者で、現在は退職してしまった元上司のパートナー(恋人)がいる。実は特殊能力捜査班は同性愛が絡む凶悪事件も担当していて、藤堂はまさに打ってつけの人材だったのだ。
「班長、重いでしょ?俺が代わりますよ!」
 しつこく何度もそう言って来る進藤を軽く笑って住(い)なし、藤堂は遠藤を抱いたまま覆面パトカーに乗り込んだ。

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