お嬢様といっしょ
お嬢様と私
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時刻は夜の十時過ぎ。

『あ。ごめん。梨花(りんか)お嬢様、お風呂から上がられたみたい。また明日ね』

そのラインのメッセージにはすぐに既読がついて、

『あ、うん。おやすみー』

そんなメッセージが返って来た。
そのメッセージを私が知るのは、翌朝のことになるのだけれど。

「ああ、いいお湯だったー。あれ、花苗(かなえ)。電話かラインしてた?」

そうのんびり言いながらバスルームから出て来たのは、私がお世話させて頂いている梨花お嬢様。
小柄な体型に不釣り合いな大きな胸は、バスタオル一枚で隠し切れるものじゃない。

「あ、いえ。なんでもないですよ。えーと、私もお風呂、頂きますね」
「うん。行ってらっしゃい」

何故だかドキドキする胸を抑えながら、私もお嬢様に続いてバスルームへと向かった。


「あー、もう。相変わらずお嬢様のあれは目に毒だよ……」

梨花お嬢様は京都の旧家、万里小路(までのこうじ)家のご令嬢で、私が子供の頃からお世話をさせて頂いている方だ。
その素晴らしい肢体を惜し気もなく晒している無邪気なお嬢様は、私の邪(よこしま)な気持ちを知らない。

一日の疲れを落とすべく、軽くシャワーを浴びてからゆっくり湯舟に浸かる。

「あー、いい気持ち」

猫足が可愛いこのバスタブは、女子にしては少し大柄な私でも、十分、手足を伸ばすことが出来た。


私、御田(みた)花苗と梨花お嬢様は、本日、めでたく高校生になった。
中学一年生の春に香坂(こうさか)学園の中等部に編入してから四度目の春を迎えた今日、めでたく高等部に進学したわけだ。

我々が通う香坂学園は幼稚舎から大学まで一貫教育の学校で、全国からお金持ちの子女が集まっている。
遠方の生徒のために学生寮も用意されていて、その寮で私とお嬢様は中等部一年生の頃から生活しながら学校に通っている。

「あー……」

学校はともかく学生寮も俗に言うセレブ仕様で、学生寮の域を越えていた。
まるで2LDKの高級マンションの一室のような部屋が私たちの部屋で、その内装もお嬢様のご実家であるお屋敷とそう変わらない。
つまりは何から何までお金持ち仕様で、庶民の私には分不相応窮まりなくて。

そもそも私は万里小路家の住み込み家政婦の母親と、万里小路家の使用人のために用意された離れで暮らしている。
その離れでさえもかなりのもので、庶民だと言いつつ、子供の頃からそれなりの暮らしはしていたのだけれど。

それはともかくこの女子寮は、何もかもがお嬢様仕様でとても乙女チックな造りになっていた。
お部屋は基本的に一人部屋だけど、私はお嬢様のお世話が出来るようにと、お嬢様と一緒の二人部屋にさせて貰っている。

内装や調度品、その何もかもが白とピンクで、お嬢様仕様と言うよりもお姫様仕様と言ったほうがいいかも知れない。
そんな豪華な一室に備え付けられているお風呂にゆっくり浸かり、私は思いを巡らせた。


[*最初][続く#]
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