さよならをもう一度
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 三時過ぎに食べた食事が思いの外充実していたからか、夕刻を過ぎても腹は減らなかった。ずっとパソコンに向かっていた俺は余程集中していたようで、不意に辺りがすっかり闇に沈んでいたことに気が付いた。
 慌てて電気をつけ、時計を見る。
「わ、もう19時過ぎか。全然気付かなかった」
 時間を確認してただ驚いた。

 出会いが最悪だった俺と佐川は、高一、高二と二年間同じクラスだった。不思議なことにあんなに最悪な出会いをしたはずなのに、二年生に上がる頃には俺たちは恋人同士になっていた。
 学校が男子校だったこともあり、ある意味では自然な流れだったのかも知れない。けれど、男にしか恋愛感情が持てない俺とは違い、佐川は完全なノンケだ。周りが男だらけの特異な環境下、周りに流されてしまった感も否めくて、高三でクラスが離れると俺は、受験を理由に佐川との接触を完全に断った。

 一度目は、自然消滅という理想的とは言い難い状況だったけど、高校生活最後の日。卒業式が終わり、佐川が後輩や同級生に取り囲まれているうちに、俺は早々に学校を後にした。
 佐川が地元の大学に進学することを知り、俺は敢えて都会の大学を受験していた。高校を卒業したあの日、心の中で呟いた『さよなら』は佐川に届いたのか届かなかったのか、とにかくそれ以降、今の職場である高校で教員仲間として再会するまで、佐川とは音信不通だったのだ。

 俺たちの仲が自然消滅したのが十年前。
『よっ。木塚久しぶり』
 偶然再会したのが三年前で、再会して直ぐ、俺が佐川の家に転がり込む形で同棲生活が始まった。
 よくよく考えて見れば、佐川から『付き合おう』と言われたことは一度もない。自然消滅する前も再会した後も。しかも、そのことには一切触れていない。
「……あ」
 その時、不意に最悪なことに気が付いた。

 テレビでは、関東地方でようやく木枯らし一号が観測されたとのニュースが流れている。やけに顔色が悪いアナウンサーの唇が紡ぐ言葉を俺は、ただぼんやり聞いていた。
 多分、流されていたのは佐川じゃなくて俺のほうだ。その証拠に、高校時代を振り返るも、俺が佐川に何か影響を及ぼしたようには到底思えない。
 佐川と付き合っていた高校時代。常に佐川をこちらに引き入れた罪悪感のようなものが俺にはあった。
 だけど今思い返してみても、高校時代の少なからず俺と関わってしまった事実を除けば、佐川はあくまでも佐川のままだ。

[*前へ][続く#]
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