さよならをもう一度
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「これ、全部お前が?」
「まあな。遠慮せずに食えよ」
 テーブルに並べられた料理に目を見張る。焼き魚にお浸し、冷や奴に具だくさんのお味噌汁。
 駆け出し俳優の耕平は、まだテレビドラマでもエキストラ出演している程度で認知度も低い。当然、給料も殆ど貰えてないはずで、
「いただきます。ありがとな。後で食費を出すよ」
「気にすんな……って言いたいとこだけど、すまんな。助かるよ」
 テーブルに並べられたおかずの数々は、節約術に長けたものだった。

「この菜っぱ、何?すごく美味いんだけど」
「大根の葉っぱ。因みに味噌汁ん中とそれもな」
 お浸しは大根を余すことなく使っているようで、味噌汁の具もよく見ると大根の実の部分も葉っぱも使っている。他の具材も野菜くずを使っているようで、冷や奴は一丁分の半分が小皿に盛られている。
 焼き鮭の切り身はいつも自分の分だけ買っているはずで、事前に連絡はしていたけれど、自分の分まで用意してくれた耕平に頭が上がらない。
「耕平こそ、いい嫁さんになれるよ」
「そりゃどうも。貰ってくれる?」
 気持ち悪いシナを作っておどける耕平に笑って、俺は感謝しつつ少し遅い昼食を平らげた。

 そう言えば部屋に着いて早々、耕平は俺に食事を作ってくれたけど、耕平は既に食べていたはずだ。申し訳なく思ってその旨を伝えると、
「気にすんなって。拓海のことだから、朝から何も食べてないんだろ」
「……うん、まあ」
「俺もこれ食べたらすぐバイトに出るからさ。夜は遅くなると思うから、適当に布団敷いて先に寝ててくれな」
 耕平はそう言って、俺の頭をポンと軽く叩く。
「おっと。もうこんな時間か」
「洗い物や後片付けは俺がやっとくよ」
「悪いな。恩に着るよ」
 行ってきますと部屋を出て行く耕平を見送って、朝から切っていたスマートホンの電源を入れた。まだ佐川はお見合いから帰ってないのか、佐川からの着信履歴が一件あるだけだ。
 佐川からの着信履歴が一件。
 後ろめたさから見合い中に電話して来たであろう佐川を思うと笑えて来た。佐川には、後ろめたいことをしている最中に電話してくる変な癖がある。食器や調理器具の洗い物と後片付けを済ませ、職場から持ち帰った資料に目を通す。
 仕事で使っているノートパソコンにもメールは届いていない。帰宅した佐川が俺の荷物がなくなっていることに気付くのはいつ頃だろう。それまでに持ち帰った仕事を済ませ、スマートホンの電源ももう一度落としておかなきゃな。

 一時的に佐川から別れたとしても、職場が一緒の佐川とは明日も顔を合わせることになる。十年前に一度別れた時のことを思い出して、俺は思わず苦笑った。

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