さよならをもう一度 [2/5] 俺と佐川が出会ったのは、高校の入学式の日のことだった。俺が人込みの中で背伸びをしながらクラス分け表から自分の名前を探していると、 「名前、何?」 「へ?」 「何組か見てやるよ」 頭上からそんな声がした。 当時の俺はまだ成長期の途中、おまけにクラスの中でも一番背が低くて、身長は百六十センチもなかったように思う。その声に振り返ると俺より頭一つ大きなやつが後ろにいて、にやにや笑いながら俺を見下ろしていた。 「……自分で見る」 「ジブンデミル?変な名前だな。デミルが名前か?」 「なっ」 「ジブン、ジブン……どこにもないぞ。おまえ、本当に合格したのかよ」 俺の後ろから余裕でクラス分け表を見て、そんなことを言ってくる。 からかわれていることにむかついて無視したけど、生憎そいつと俺は同じクラスだった。 「あれ、デミルじゃん。俺と同じクラスか」 「げっ」 入学式が終わり、自分の席に着いて一息ついているとさっきの男、佐川にそう声をかけられた。因みにその後、しばらくの間、俺は佐川と佐川周辺のやつらから『デミル』と呼ばれることになる。 「よろしくな。デミル。俺は佐川圭介」 「……木塚拓海」 このまま『デミル』と呼ばれ続けるのは本意じゃなくて、渋々名前を名乗ったっけ。なのに『デミル』のほうがカッコイイとかなんとかよくわからない理由で、俺は二学期が始まる頃まで佐川たちから『デミル』と呼ばれることになった。 まだ差ほど寒くないが、今日は一枚多く羽織った。手荷物を少しでも少なくする狙いもあるし、何より今日は心が寒い。 「拓海」 物思いに耽りながら階段を下り切った瞬間、不意に声をかけられた。 「耕平。迎えに来てくれたのか」 「まあな。つか、荷物それだけ?」 「ああ。いらない物は全部捨てたから」 耕平は新しい男……、じゃなくて俺の単なる幼なじみで、俺と佐川のことを知る数少ない人間だ。 「さあ、乗って」 「え、なに。車で来たの?」 「うん」 「耕平、いつの間に免許取ったんだよ」 「実は、十八になって直ぐに取ってたりして」 「へえ、そうなんだ」 「まあ、普段は電車のほうが便利だし、こっちじゃ滅多に乗らないんだけどさ」 いいから乗って乗ってと背中を押され、俺は耕平の愛車だという軽自動車の助手席に乗り込んだ。 |