綱雲
























やけに優しくて柔らかい声がする。夢からの浮上。なんだか擽ったい。ああ、そうか、沢田の声だ。



「………………ん、ん……?」



ぼやけた視界に沢田が映る。いつも通り変わらずゆるゆると微笑んでいる。擽ったい原因はこいつのようだ。何度も頭のつむじ辺りに手を置いて髪を梳いては戻している。思わず身を捩る。



「あ、雲雀さん、起こしちゃいましたか?」
「いや……………いいよ、別に」
「随分気持ちよさそうに寝てたから、起こせなくって」



そういえば僕は報告書を渡しにきたんだっけ。それであんまりにも疲れてたからソファーを借りて、あれ、膝枕なんかしてもらってたっけ。まあ、いいか。気持ちいいし。



「いい夢でも見てたんですか?すっごい幸せそうでしたけど」
「世界が、」
「はい?」
「世界が終わった後の夢を見てたよ」



ぷっ、と沢田が吹き出す。随分メルヘンチックというか思春期の夢見がちな学生のようなものだと僕だって思った。でも本当に、あれは終わった後の夢としか言いようがなかった。

街はそこら中が瓦礫で埋まっていて、沈まない太陽が赤々と地平線近くでずっと燃えてた。咬み殺す獲物も何も見あたらなくて、ただ進める所を進んでいたら人影を見た。
黒いスラックスに煤で汚れたシャツに緩んだネクタイ、足下にはスーツの上着が転がってた。瓦礫を積み上げた天辺にグローブを血塗れにした沢田はただ笑って僕を見下ろしてた。



「沢田」



僕が一言沢田の名前を呼ぶと彼はひどく驚いた顔をして、それに僕も驚いて一度瞬きをしたら僕は沢田と一緒に瓦礫の天辺に座ってた。沈まない太陽に燃やされる地平線と渇いて端からさらさらと砂になる瓦礫を眺めてた。
隣にはずっとずっと沢田が座っていて、世界には二人の存在と風と砂と地平線が燃える音しかしていなかった。そんな世界が終わった後の夢を見ていた。

なんて都合のいい夢だろう。きっと世界が本当に終わったら僕も沢田も生きてなどいないのに。瓦礫さえも残りはしないのに。



「沢田」



夢の中と同じ様に呼んでみたら沢田は驚いたりなんかせずにいつも通りゆるゆると微笑んでいた。その表情に僕は心から安心する。眠気がまた帰ってきて一つ欠伸をした。



「沢田、世界が終わった後の世界は…………そうだね、楽園みたいだったよ」



思い返せばあの瓦礫は墓石に見えなくもなかったな。縁起の悪い楽園だ。今度は僕が吹き出す番だった。頭を撫でられて今度はもうちょっと普通な夢が見られたらいいなと思いながら目を閉じた。
























20101212.
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