綱雲




















しくじった。まさかこの僕が撃たれるなんて。
敵はみんな殺したはずだった。はずだったんだけど。最後に一人、仲間と僕を見て震える手で弾丸を放ったらしい。
急所すれすれ、いや当たったかも。そんな場所を撃たれてしばらく、僕の血はもう足りてない。その男は僕がとっくに殺した。中途半端は嫌いだ。
ぼんやりと空を眺めて、ああ終わるかなと柄にもなく弱気な考えなんかもしてみた。

「雲雀さん!」

情けない顔、しないでよ。僕に駆け寄るおおよそボスには見えない彼に言う。ばか、何やってんですか、死にますよ!と沢田が言った。
ばかじゃないの、死ぬわけないだろ。そう言おうとしたけどやっぱり言えない。確証がない。むしろ死ぬ気がする。自分のことぐらいわかる。血が足りてない。
だってもう座り込むのがやっとでトンファーも握れなくてなんだか寒くて暑い。傷だけがずくずくと熱を持って体全体は酷く冷えてる気がする。
焦る沢田を見上げて情けない顔が可笑しくてくすりと笑った。途端に喉の奥からなにかが込み上げてきて顔を動かす余裕もなく噎せた僕はそれを吐き出した。
血、真っ赤な血。
人間、血を吐いたら終わりを覚悟しなければいけないらしい。じゃあ僕も終わりかな。そう思って最後ぐらいは穏やかにゆっくり眠りたいなんてまた似合わないことを思ったからそっと目を閉じた。

「っ、雲雀さん!」

うるさいよ。掠れるけどまだ声は出るみたいだ。
君、僕に死んでほしくないの?ボスのくせになに泣きそうな顔してるんだい。
早く医療班を、沢田はどこかに向かって叫ぶ。
もういいってば。意外とあの男、腕は確かだったみたいだ。銃弾は思ったよりずっとずっと大切な血管に傷を残していた。
血が抜けていく。多分もう本気で危ない。きっと間に合わない。
傷のずくずくした痛みや熱さは次第に感じなくなってきて寒さも感じなくなってきて、ぬるま湯みたいな浮遊感が僕を満たしていた。
こんな中で終えられるならこれだけ手を汚してきた自分には十分じゃないかと力の入らない腕を持ち上げて沢田に触れようとした。最後に、最後だけ、触れていたかった。女々しいとかそんなのわかってるし今更どうこうするつもりはないけど、感覚の無い手の先に汗に塗れた生きている沢田の肌があるだけで安心した。

「さわだ、」
「雲雀さん!しっかりしてください!今医療班が来ますから…!」
「沢田…いいよ、もう、いい」
「ダメです!」
「も…いい、ってば」

ダメだ、ダメだと言いながら沢田は僕を痛いくらいに抱きしめた。といってももう痛いかなんてわからないんだけど。
生きなきゃダメです、雲雀さん、死なないで。情けない顔で沢田は泣いた。僕は幸せで笑った。
本当に幸せだと思った。ぬるま湯みたいな浮遊感の中、沢田がすぐ側にいて、おまけに今日は昼寝に最高な柔らかな陽射しが差して、終わるには少し恵まれすぎてる気もした。

「…………沢田、お別れだ」
「雲雀さん!もうちょっとですから!だから…っ!」

だからもういいんだって。もう僕は眠るよ。
いつか目が覚めたらきっと隣にはまた沢田がいて、少し不機嫌な僕に沢田が、起きた?って微笑みながら声をかけるんだ。
それから二人で珈琲にするか緑茶にするかで揉めて、書類整理をしたくないとごねる沢田を宥めて、半分手伝う約束をして、それから、ああそうだね、こんないい天気だったら申し分ないんだけど。





























20101211.
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