ハル京
































京子ちゃんは可愛い。とってもとっても可愛い。メレンゲのように輪郭が甘くてふわふわに蕩けていて、歩く度に甘くていい香りがするのだ。唇は笑っちゃうくらいぷるぷるで透き通るピンク色だし、睫毛は長くて多くて焦げ茶色の大きな目を守っている。ほんのりと染まる頬はピーチとかアプリコットとかそういう名前をつけてチークとして売ったら最高に売れるに違いない。
つまり京子ちゃんは女の子も男の子も満場一致で可愛いと思うものを集めきったプリティガールだった。正直言えば羨ましい。だからせめて髪は長く伸ばしていた。京子ちゃんの髪は短かったから。長い髪の方が女の子らしいと思ったのだ。そしてハルは京子ちゃんに憧れていた。恋をしていた。


「ハルちゃん、久しぶり。髪切ったんだね。すっごく可愛い。似合ってるよ」


京子ちゃんのお兄さんが、京子も最近髪を伸ばし始めてな、と言っていたのを聞いた。ああ、もう、ダメだ。何がダメなんだって笑われそうだけどその時本気でもう勝てないと感じたのだ。ハルの一生懸命手入れして長く長く伸ばした髪は美容室のごみ箱に入ってしまった。首元がすーすーする。余りに寒いのでマフラーをきつく巻き直した。きっと京子ちゃんならどんなに寒くてもふわふわした巻き方を貫くのだろう。あんな寒そうな細い首をしているのに。

京子ちゃんのちょっと癖のあった髪はすとんと真下に伸びていた。ストパ当てたの、と京子ちゃんが言った。なんだか京子ちゃんがストパなんて略語を使うのに違和感を覚えて、そうなんですか、としか言わなかった。店員さんが持ってきたキャラメルマキアートのカップに口をつける京子ちゃんを、自分のジャスミンティーを飲みながら観察してみる。
相変わらず、可愛い。輪郭はマシュマロみたいに柔らかそうで、今はわからないけどきっといい匂いがするのだと思う。ピンク色の唇は健在で、睫毛はやっぱり長いし目は潤んでいて守ってあげたくなる感じ。頬は幸せの薔薇色だった。やはりハルは京子ちゃんに恋をしていた。
今朝電話をかけてみたのだ。数年前から一度もかけていない番号に。もし出てくれたらハルですって言おう。もしハルのことわかってくれたら会いたいですって言おう。もし会えたら言おう、絶対言おう。


「あ、」

「あのね、ハルちゃん」


声がぴたりと重なった。ごめんね、ハルちゃん先いいよ。京子ちゃんがふわふわと微笑む。京子ちゃんは可愛くてその上優しくて、大人になってもやっぱり非の打ち所がない子だった。いいえ、京子ちゃんからどうぞ。意気地の無いことだけれどまだ少し決心が足りていないから、京子ちゃんの話を聞き終わったら言おう。言うんだ、絶対に。


「ふふ、あのね、」


私、来月に結婚するんだ。

結婚するんだ、そう言って京子ちゃんは薔薇色の頬を更にちょっとだけ赤く染めた。その瞬間、何て切り出そうか京子ちゃんはどんな反応をするだろうか、とフル回転で想像を広げていた脳がフリーズした。私って、言った?私のお兄ちゃんとか私の友達とかではなく、私って?私って京子ちゃんのこと?じゃあ京子ちゃんは、京子ちゃんが、京子ちゃん、に。


「結婚って………京子ちゃん、が、ですか…?」

「うん。ハルちゃんも式に招待したいなって思ってたから丁度よかった。ね、来てくれる?」


もちろんです、おめでとうございます、ハル、京子ちゃんが幸せになってくれて嬉しいです。京子ちゃんの幸せそうな顔が見れなくて、キャラメルマキアートを見つめた。声を出すのが精一杯で瞬きまで意識が回らなくて乾いた視界がぼやける。カタカタ震える唇はきっと血の気を失ってる。今のハルの顔は最高に見苦しいに違いない。それなのにじわじわと涙だけが滲んできてぼやけた視界が水分に包まれる。瞬きするだけで零れ落ちそうな潤み具合。はひ、京子ちゃんとお揃いです。

























20101112.
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