綱ザン

















「ザンザス、お前は誰かを愛したことはある?」

「あ?ねぇよ、気色悪ぃ」

「だよねぇ」



ははっ、と綱吉は笑った。清々しい笑みだとザンザスは思う。
昨日、奈々が死んだのに考えられないくらい爽やかだ。いや寧ろ態とそう装っているのかもしれない。
死因は急性心不全。突然の死だった。綱吉とザンザスの目の前で奈々はぱたりと倒れ、救急車を呼ぶとか以前に既に事切れていた。

「お帰りなさい。ツー君もザンザス君も、お腹空いたでしょう?お夕飯出来てるわよ」

そう柔らかく言ってくるりと背を向けて、そして死んだ。
綱吉は初め何が起こったのか理解出来ず「母さん!」と叫ぶだけだった。ザンザスが黙ってボンゴレに連絡をした。

「沢田奈々が死んだ」

電話の向こうで獄寺が息を飲んだ。状況をあらかた伝えて通話を終える。
綱吉は茫然と奈々の手を握っていた。

「おい、連絡はしておいた。今日中に検死班が来る」
「母さん…急に、どうして…!」
「奈々は死んだ。情けねぇ顔してる暇があったら遺品の整理をしろ」

ザンザスは家の中を見に回る。不審者が侵入した形跡は無し、毒物を服用した可能性もゼロに近い。
奈々は幼い顔をしていたがそれでももう40か50は超えていたのではなかっただろうか。正確な情報は何一つ知らないが。
苦労の多い生活だっただろう。門外顧問の家光は世界各国を飛び回り、何かを隠されているのに何も訊けない日々。やがて息子は傷だらけで帰るようになり、同じく何も教えてはくれない。
この広めの家で奈々は一体何と一緒に暮らしてきたのだろうか。それはきっと家族が帰らない孤独と良妻賢母であることの決意だとザンザスは思った。

「検死の結果、門外顧問の奥様の死因は急性心不全と判明致しました」

ああ、やはり。ザンザスは深い溜め息を吐いた。どうか安らかにあってくれと柄にもないことを沢田家の居間で祈った。








そして冒頭の問い掛けに戻る。式の後、綱吉はザンザスに式場に残るように言い、他はSPから守護者まで全て立ち去るように命令した。
相変わらず綱吉はからからと笑う。酔ったときのように饒舌で堂々としている。



「俺は、母さんを愛してたよ」

「そうか」

「愛するって、何なんだろうね」

「他人は手前の鏡だ。他人を愛することで跳ね返る愛情にカス共は酔いしれてるだけだ。ナルシストもいいとこだな」

「お前は相変わらずよくわからないことを言うんだから」



また笑う。何が可笑しいのだろうか。さっぱり理解がならなくてザンザスは眉を寄せる。
こいつはマザコンの気があったから相当なショックを受けていたはずだ、とザンザスは思った。もしかしたらネジが外れたのかもしれない。ならばボンゴレ10代目はおしまいだ。次を探さなくては。



「ザンザス、お前俺の気が狂ったって思ってるだろ。大丈夫だよ。俺はいたって正常。明日から職場復帰だって出来るさ」

「そうか。じゃあこんな無駄話をせずに今すぐ帰って書類整理をすることだな」

「ねぇ、ザンザス。お前は愛は偽りだと思う?」

「…ああ」

「そっか」



そして綱吉は今までの笑みをぴたりと止めた。しん、と空気が黙る。
唇が徐々に開かれる。止めてくれ、代替品にされるのはもう沢山だ。










「俺はお前のこと愛してるよ」

































ザンザス誕生日おめでとう^^
誕生日?は?って感じですみません…ジャンピング土下座でいいですか。
沢田はあれです。誰かを愛してないと自分も愛されない気がして不安だから誰か愛させて!みたいな。
しかし誕生日まじで関係ない…。



20101010.
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