ユニブル



















ベッドの上でブルーベルはヒステリックに何かを叫ぶ。枕を床に叩き付けて、それじゃ飽き足らずぬいぐるみも投げて、キイキイ喚く。
枕元に飾ってあった花瓶に手が伸びた。ブルーベルはそれも床に力一杯投げて壊す。つるつるした表面に水が広がる。花は欠片に塗れて無惨に散っていた。
ユニは黙ってそれを見ていた。




「なんで殺さないのよ!殺しなさいよ!お兄ちゃんも白蘭もいない!歩くことも出来ない!なのに!どうして生かすのよ!」

「ああ、ブルーベル、落ち着いて。大丈夫、ここには何も怖いことなんてありません」

「怖いとかいう話じゃない!なんでこんなになって生きなきゃなんないのよって話!」

「大丈夫です、大丈夫ですよ。貴女は綺麗だから。花瓶、割れて仕舞ったんですね。まだ体調が万全じゃないんですから重いものは持たない方が、」

「あんた頭可笑しいの?」

「枕もぬいぐるみも…お泊り会定番の枕投げはもう少し元気になったらやりましょう」




ああ、楽しみ!マフィアに参加させられてから同年代の女の子に会ったことなんてなかったから。ちょっと活発な子だけど、内気な私とは仲良くしてくれるかしら。長い髪がとっても綺麗。羨ましい。
何だかいろいろと大きな声を出しているけれど、違う国の言葉なのか、聞き取れない。折角のお友達の言ってることです。ちゃんと聞かないと。ベッドに乗り上げて聞こえやすいように近づいたら、ひい、と彼女が息を飲んだ。




「ごめんなさい。よく聞こえませんでした。もう一回言ってください」

「ひ、あ、あんたなんか、ころし、殺してやる、んだからっ」




殺す?まさか人形みたいに綺麗で可愛らしい彼女の口からそんな言葉が出るわけがない。聞き間違いかしら、それならいいけど。
ああ、そんなに叫んだらその鈴のような声が枯れてしまいますよ。その薄い皮膚と肉の下にあるであろう声帯を思って喉を撫でる。彼女が声を出す度、呼吸をする度に指の先から手の平まで全てが心地好く震えた。




「ね、ブルーベル。お友達になりましょう。私ずっと男に囲まれて寂しかったんです。私は、貴女のこと好き。ブルーベルは?」

「きら、い、嫌い…あんたなんて、あんたなんて!大っ嫌い!」




鈍器で頭を殴られたような気がした。本当に殴られたことはないけどそれぐらいショックだった。泣いてしまいそう。彼女の瞳にも涙が溜まっていた。
え?どういうこと?よくよく見れば彼女の瞳の中には目をぎらつかせてそのくせぼんやり虚ろに笑う女がいた。
ああ、本当は私のこと大好きでお友達になってくれようとしてるのにそいつが言わせないのね。だって彼女は花を見せてくれようともしたし、枕投げをして遊んでくれようともした。そいつがいけないのね、待ってて、今そいつを追い出して差し上げますから。

指の先に彼女の涙が触った。
















20101017.
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