ジュリM
















M・Mはひとしきり暴れて暴れて抵抗した後、電池が切れたように大人しくなった。
馬鹿らしくなったのだ。
死と隣り合わせに生きてきたくせに今更死ぬのが惜しいなんて惨めたらしいったらありゃしないわ。


「あれ?大人しくなっちゃってどーしたの?」

「何よ、アンタが楽に殺せるように大人しくしてあげてんのよ。早くしなさい」


はっ、と鼻で笑った。
体の下にある滑らかなシーツが冷たい。
折角の新しいドレスが皺になるのは嫌。
そうは思ってもどうにもならない。
目が覚めるような濃紺のシルクのドレス。
裾にあしらわれた様々のダイヤが夜空の星みたいでお気に入りだった。
アクセサリーが首を圧迫して少し辛い。
大粒の宝石がいっぱいでパーティーにぴったりなやつ。
ブレスレットとイヤリングは暴れたときに外れてしまったみたいで感覚がない。
イヤリングで素敵なデザインって少ないから大切にしてたのに。
ハンドバックはフランスが誇る有名ブランドの限定色。
思い出せば思い出す程今日はお気に入りのものばっかりだったことに気づく。
勿体ないわ、誰か価値がわかって尚且つ似合う人が貰ってくれたらいいんだけど。


「何考えてんのー?」

「遺産はどこに寄附されるのか考えてたのよ」

「へーえ、慈善家なんだ」

「そんなわけないじゃない」


口座に入ってるお金は国に還るのかしら。
まあ、フランスは好きだからいいわ。
お洒落だし綺麗だし、ストライキが多いのはイライラするけど。
舌を噛み切って死んでやろうかと思った。
でも多分汚らしいから思い止まった。
どうせ死ぬならお伽話みたいにとびきり美しくロマンチックに死にたい。


「ね、ね、名前は?マリーとか?」

「M・M。そんな頭空っぽそうな名前じゃないわ」

「うっわ、かっこいー。偽名?」

「さあね」


男はひゅうと口笛を鳴らしてにやにや笑う。
戸籍になんて載ってるかは知らないけど、アタシの名乗るべき名前はM・Mに違いなかった。
指輪だらけのごつごつした手がM・Mの首をアクセサリーごと押さえる。
嫌だわ、跡が残るじゃない。


「最後に何か言いたいこととかある?」

「アンタの、名前は?」

「んー?俺?加藤ジュリー。ジュリーちゃんって呼んでいいよ」


だっさい名前、と言いたかったのだけれどアタシの喉はひゅうと鳴るだけだった。
あーあ、ロマンチックな最期なんてやっぱりお伽話の中だけね。
息苦しい世界でせめて死に顔は綺麗であるようにと祈って、M・Mは目を閉じた。


























20101012.

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