綱骸


















「骸…見つけた、よかった、」



霞む視界にふらふらと綱吉が映り込む。
都合のいい幻覚かと思った。術士は死ぬ前は力の制御が難しくなるから。
へにゃり、とそれが微笑んだ。



「骸」



寸分違わない暖かい声。
ああ、本物か。こんな危険な所にいないで早く帰ればいいものを。
綱吉はそっと骸の隣に腰掛けた。緩慢な動作。
場が場だからかもしれないが、煙と血のにおいが酷い。



「何しに、来たんです、か」

「お前を一人には出来ないと思ってさ」

「馬鹿に…してる、ん、ですか」



リングと奪い返したものはクロームに預けましたから安心してください、と骸は言う。
綱吉はふるりと首を振った。再び緩慢な動作。
そういう意味じゃなくて、ただお前の側にいたかっただけだよ。
そう言って綱吉は眉を寄せる。



「ごめん、骸。やっぱさっきの嘘…。俺が一人になりたくなかっただけだよ」

「どういう、」



見て、これ、と綱吉が腹部を指す。弱くなった目でもわかるどす黒い赤。
血だ、間違いなく。
銃弾が三発当たってね。多分、一つぐらいは貫通してるだろうけど。
へにゃりと笑った。諦めて死を受け入れた顔だった。
ついさっきまで骸は死への恐怖に青ざめていたというのに。死んでまた永劫未来を巡ることになるのかと泣いていたのに。



「怖く、ないん、です、か…」

「んー、まあ、少しは。でも…骸、いるし」

「はっ…僕が死ぬのは、決定、ですか」

「俺だってそれくらいわかるよ」



綱吉の長い骨張った指が骸の傷に一つずつ矢印を向ける。頭、頬、肩、腕、腹、脚、血まみれだった。
出血が酷い。身が剥き出しになっている所もある。



「それ、と、それが一番酷いだろ。どっちもいつ死んでも可笑しくない」

「ばれましたか…」



ふふっ、と笑った綱吉の口から血が吐き出される。
長くないのだ、お互いに。生きて帰るには些か重傷を負いすぎた。
綱吉が骸の手を握る。その冷たさに驚いて肩が跳ねた。



「ごめん…すごく寒いんだ、ちょっとだけ手貸して」



ひやりとした指先。あんなに炎を操っている手なのに氷のように温度がない。
口こそしっかりしているものの、よく聞けばひゅーひゅーと息が漏れる音がしている。
顔を見たいと骸は思った。しかし霞んでよく見えない。水の中にいるみたいだった。



「骸、俺…お前に会えてよかったよ」

「な、に弱気な…こと、言って…ん、です、か」

「はは…弱気、か……なあ、骸、俺お前に言いたいことあるんだ」

「なんですか…」

「うん、あのさ」


































ああ、何も見えない聞こえない。
待って、まだ、何も―――





















20100912.

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