雲鈴






















女子というものは皆、下等で卑怯なものだと思っていた。
断っておくが決して男尊女卑の思想ではない。あの考えも甚だ下品であると僕は思っている。
男は無条件で女より上であるなんて馬鹿らしい。男であろうと女であろうと強い者が上で弱い者が下に決まっている。
男尊女卑なんてそんな世界の理に嵌まった結果弱かった男の負け惜しみだ。

…ああ、話がすっかり逸れてしまった。
とにかく僕は男尊女卑という思想とは別に僕個人で女子というものは下等で卑怯なものだと思っていた。
女だからという理由で何かに立ち向かいもせず性別を盾にして強い者の陰で王様だか女王様だかのように高慢に日傘を差して笑っているのだ。
戦わず守られるだけの弱い生き物のくせして偉ぶった性質が生理的に合わなかった。






「雲雀恭弥」

「…なに」

「並盛の案内をお願いできますか。明日からでも見回りを始めたいので」

「僕の並盛を我が物顔で巡回しようと言うのかい」

「いいえ、貴方が先にいた土地ですからでしゃばる真似はしないつもりですが」

「……よく言うよ」






いいよ、ついておいで。
そう言って校門から出て右に折れる。こちら側は住宅地に入る少し前辺りの空き地と電柱とアスファルトばかりの道で今の時間帯は噎せ返るような湿度とじりじりと肌を焦がす温度が辛い。
いつもは夕方頃に見回るけど、今日はこちらから回ることにする。
これで一つでも弱音を吐いたらその場で咬み殺そう。彼女はなかなかに強かったからそれも楽しいかもしれない。何だかんだで決着はまだついていないのだ。
そう思っていた。

しかし、何度空き地を通り過ぎようと、何度電柱を追い越そうと、何度アスファルトに目を落とそうと、彼女は一向に暑いの一言も言わない。
こめかみからつうと汗を流しながらも首許を緩めないで気丈に歩いている。
真っ黒な詰め襟の制服だ、暑いに違いない。なかなか根性のある人間だと幾分か好ましい気持ちになった。






「君、暑くないの」

「ええ、暑いですね」

「どうして言わないんだい」

「言って変わるものでもないでしょう」

「まあね」






気に入った。
彼女は僕の知る女子の誰にも似た部分がない。戦うし強いし無知でも高慢でもない。
どうやら僕は女子は皆、下等で卑怯なものであるという認識を改めなければいけないらしい。
訂正、女子というものは下等で卑怯なものであるが、それはただし彼女を除く場合である。

蝉が僕の鼓膜を焼いた夏の昼だった。
















20100723.
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