綱骸
「お前はいつだって」
「諦めたような」
「悲しい顔をして」
「笑うね」
そんなお前が心配で、俺はとうとうこんな頃まで生きてしまったよ。
死にそうになると、いつも思うんだ。
ああ、だめだ、まだ見ていない。
あいつのちゃんと泣けた顔を見ていない、って。
あ、言っとくけど俺は別にSとかじゃないよ。
ただお前が泣きそうなのに泣けてないのが気掛かりでたまらないんだ。
「お前はいつもそうやって」
「ちゃんと本気で怒ってくれるから」
「好きだよ、そういう所」
骸、よかった。
泣けたんだね、お前の中からようやく命が溢れたんだね。
よかった、よかったよ。
もう安心した。
泣けるなら生きられる。
感情があるなら人は生きられる。
骸、お願いだからお前は決してそれを失ってはいけないよ。
「ああ、骸」
「俺は、お前のことが心配でたまらなかったよ」
「泣かせたいわけじゃないんだ」
「本当はもっともっと笑って」
「幸せになってくれたら」
「それはすごく素敵なことだと思ってるよ」
幸せになるんだよ、骸。
お前はもう十分に苦しんだだろう。
いっぱい泣いて泣いて出し切ったら腹の底から笑うといい。
泣きつかれたら眠って、空腹に目が覚めて、食べて、笑うといい。
幸せになるんだよ。
ああ、俺はお前のことが心配でたまらないんだ。
「つ、なよ、っ…く、ん」
「いかないで…っ、いかないでくださっ、い」
ごめんね、俺はお前を泣かせたいわけじゃないんだ。
俺はSとかじゃないからね。
お前は絶対に、いっぱい泣いて、いっぱい笑って、幸せになるんだよ。
骸、俺はお前のことが大好きだったよ。
20100704.