綱山

















真っ白い、蛍光灯の光が延々と映る廊下。つん、と鼻につく消毒液の独特のにおい。とは言え、ここには通い慣れてしまったから正直鼻につく程ではない。でも、嫌なにおいだ。

真っ白い廊下と同じように真っ白い扉の前に立ってプレートを確かめる。そして一つ咳ばらいをした。手を上げて、ノックを二回。


「山本、起きてる?入るよ」
「おう、いいぜー」


中学の頃、何度か山本の家に遊びに行った。部屋で遊んだ。その時も山本はこんな風に軽く通してくれた。例え病室であろうとも山本にとって自分のテリトリーであることは変わらず、その中での振る舞いも変わらないのだろう。
それは生きていく上ではとても大切な力だけれど、でも今は反省というものを演技でいいから感じさせてほしい。


「怪我の具合は」
「肋骨三本がひび、肩に銃が貫通、で、内臓がいくつか傷ついてるってさ」
「…そう」
「安静にしてればちゃんと治るってよ」


へらへらと山本が笑う。怪我をした時の山本が俺は心から嫌いだ。怪我に対する後悔とか危機感とかが微塵も感じられない。怪我を重ねる度に山本の中の何かが押し潰されて擦り減っていく。


「頼んだのは一部隊への牽制だけだったよね。どうしてこんな無茶したの」
「んー?いや、今回は獄寺いなかったから俺が頑張んねぇとって思ってさ」
「どんなに頑張っても獄寺君の代わりは出来ないよ」
「ははっ、ツナは厳しいなぁ!じゃあもっと修行しねぇと」
「そうじゃなくて」


そうじゃなくて、誰も山本に他の人の代わりを求めてるわけじゃなくて、ただ山本は山本の出来るだけのことをやってくれたらそれは十分過ぎるわけで。
だって世の中、やるべきことをやれない人間の方がずっと多いじゃないか。お前は十分なんだよ、だから、


「山本」
「ん?」
「お前は無敵じゃないんだよ。ヒーローじゃないんだ。いつまでも修羅場を越えられると思うな」


今までいろんなことがありすぎて、でも、どれもなんだかんだで綺麗に戻りすぎて、山本の何かは押し潰されて擦り減ってしまった。ねぇ、わかってるのかな、生きるってのは思ってる以上に当たり前のことじゃないんだ。


「…悪かった」
「じゃあもうこんなことはしないで、するな。俺は無茶をしてもいいって意味で医療設備を整えてるわけじゃない」
「悪かったって」
「山本、反省してる?」


おう、と笑った。ああ、だから演技でいいから反省してみせろといつも言っているじゃないか。
肋骨三本がひび、肩に銃が貫通、で、内臓がいくつか傷ついてるってさ。
耳に響いて剥がれない。いつもそうだ。人の怪我や病気は辛い。俺のせいで負うのだと考えると眠れなくなる。俺はきっと山本が心配だとか言う以前に自分が心配なんだろう。

傷が痛い、と思った。山本は痛いと言わない。生きているから、痛い。痛がらないのか我慢なのか、でも生きることを感じないのも我慢するのも、無敵じゃないんだから辛いと思うよ、俺は。





















20100623.
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