骸
「嘘つき」
「うん、ごめんな」
「嘘つき」
「悪かったと思ってるよ」
「嘘つき」
「なあ、頼むから機嫌なおしてくれよ」
「嘘つき」
「骸、」
一体どうしたというのだ僕は。
さっきからキャラでもないくせに嘘つきの言葉しか口にしていない。
それしか思い浮かばない。
一体どうしたというのだ僕は。
目の前の甘ったれでふわふわしててそのくせきめるところは超絶かっこよくびしっときめてたまに見せるSっぷりは半端じゃないちょっと、いや、かなり迷惑窮まりない男を罵る言葉ならば他にも両手に余るほどあるだろう。
「嘘つき」
なんとまあ可愛らしい言葉だろうか。
しかも彼に背を向けてソファーで膝を抱えて、所謂体育座りというオプション付き。
これが女ならばそれはもう大変いじらしく、彼氏としてはここは後ろからそっと抱きしめるか回り込んで顔を覗くかの二択しかないところだろう。
しかし僕は残念ながら男でしかない。
「骸、悪かったって」
「そうですか。誕生日は俺が一番に祝うから空けておいてね任務は半年前からセッティングして一つも入れてないからとか言って中途半端に僕に期待をさせたあげく前日の夜中に自分は仕事が入ったから無理だと連絡、しかもメール一通だけで終わらせてその後携帯の電源は切りっぱなしにしておきながら今更のこのこ間抜け面して現れてそれに対する謝罪がたった一言、悪かったで終わりですか。君は謝り方というものを御存じでないと。どこのゆとりですか。ああ、失礼。君はゆとり世代でしたね」
「むくろぉ…」
だって彼が、今まで水牢で祝えなかった分もお祝いしような、って言ったから。
僕は年甲斐も性別もなく期待してしまったのだ。
そう、正直な所それはそれは期待でいっぱいだった。
今、声を大にしてこの間の僕に言いたい。
約束は破られますから無駄な期待は捨てなさい、と。
「骸、本当にごめん。俺は馬鹿だからどうしたら骸の機嫌が直るかわからないよ。ね、だから教えて。どうしてほしい?骸のしたいようにするからさ」
ああもう、こういう所が大嫌いだ。
甘い、甘過ぎる。
彼自身も、空気も、許そうかななんて思う僕も。
僕はただ一言でいいから祝ってほしかった。
メールでもなんでもいいからちゃんと言ってほしかった。
なんて乙女チックな思考なんだろう、ああ嫌だ、本当に。
「骸、どうしてほしい?」
両頬に手を添えられてぐっと覗き込まれる。
寄せた眉と真剣な目。
琥珀に茶色を少し溶かした色の奥がゆらゆらと揺れていて、そこにぼんやりと僕が映っている。
泣きそう、だ。
「………自分で考えなさい」
「やだ、言ってよ」
「だから自分で」
「お前の口からお前の考えを聞きたいんだよ。俺、お前がしてほしいならなんでもするからさ、言ってみて」
「…………………っ、」
「ん?」
いざ口にしようとしてみたら存外恥ずかしいことに気がついて、思わず目を、いや、顔ごと彼から背ける。
…普通におめでとうって言ってほしい、なんて女じゃあるまいし。
超直感とやらはどうしたんです、沢田綱吉。
今こそ使うべき時でしょう、だから君はいつまでたっても沢田綱吉なんですよ馬鹿野郎。
「……って、言いなさい」
「え?」
「おめでとうって言いなさいと言ってるんです、この沢田綱吉め!」
「ひどっ、沢田綱吉って悪口じゃないんだけど」
「…………………」
ああ恥ずかしい。
なんだこの超乙女チックモード改みたいな状態は。
恥ずかしい、恥ずかしい、ああ嫌だ、甘過ぎる、胸やけがしそうだ。
顔を上げているのも嫌になって膝に顔を埋める。
そんな僕の頭にぽふりと彼が掌を落とした。
「骸、誕生日おめでとう。ごめんね、来年はちゃんと祝おう」
「……来年だけですか、」
「再来年もその次も、うーん…とりあえず二十四年分はやらないと」
じゃなきゃ骸も満足しないだろ?と彼が僕の顔を上げさせてからふにゃりと笑う。
………沢田綱吉のくせに僕をキュン死にさせるなんて生意気です。
僕の機嫌が直ったのを察したのか、彼は額に一つキスをして、ケーキ食べる?なんて平然と訊いてくる。
ジャッポーネのくせに甘い空気を作るのが大得意で、というかほぼ無意識で(わざとならまだ質は悪くない、性格が悪いだけで)、ああ生意気です、沢田綱吉め。
20100609.
骸誕生日おめでとう!
ディノ骸と迷ったけど今年は沢田にお祝いしてもらいました。早くらぶらぶあまあまが書けるようになりたいものです。