綱髑
クローム、一緒に死のうか。ベッドの縁に腰掛けたボスが言う。いきなり何を言うのこの人は、と思ったけれどきっと私には想像もつかないくらいに深い考えの末の言葉なんだろう。私はゆっくりと頷いた。
銃でいいかな。ボスはまるで朝食はパンでいい?というような調子で訊いてくる。死ぬのは怖くないかと問えば、クロームがいるなら怖くないよと答えてくれた。なんだか無性に嬉しくて私は笑った。多分今までで一番綺麗に笑えたと思う。私は勿論怖くない、一度体験したことはもう、怖くない。
チェストからごとり、黒光りする銃を出して、あれ、ボス、一つだけじゃ一緒には死ねないじゃない。私が探してもチェストの中には拳銃どころか替えの弾丸さえ入っていない。
ベッドの上に向かい合って座る二人。ボスは拳銃、私の手はシーツを掴む。なんとなく正座してしまう。
「じゃあ、いくよ」
ぱーん!軽い発砲音がして一瞬耳がきん、と鳴った。反動でボスはゆっくりとスローモーションで横に倒れる。ク、ロームと唇が言った。だくだくとシーツに血が染み込む。ボスはぴくりとも動いてくれない。
ボスの手の中の銃は、かちり、かちり、何度引き金を引いても弾がでない。ああ、彼は最初から私と死ぬ気なんてなかったのだと、気づいてからなんだか無性に死ぬことが怖くなった。
20100610.