綱髑























車に乗って住宅街を走る。銀行に行こうと考えていた。コンクリートの上に何かがぐちゃりと吐き出されたように広がっていた。横を通りながら見ればそれは鳩の死骸だった。無惨に轢き殺されたきっと美しい首筋をしていた鳩、かわいそうに。

ああ、でもこういうときにかわいそうだと思うと死んでしまった動物の霊が憑くらしい。ならば私の背中にはいったいいくらの霊がしがみついているのだろうか。二十三年の内にいったい何回かわいそうだと思ったのだろう。


銀行は思ったより空いていた。あまり待たなくてもすぐに順番は回ってくる。通帳をATMに入れて残高をチェックするとまた増えていた。毎月毎月、私の給料とは別に振込み限度額ギリギリまで入れられるお金の元を見て溜息を吐く。

私はその内の一万円と自分のお給料、これは彼は関係ない、を引き出して封筒に入れる。ご利用、ありがとうございました。マニュアルどころかプログラムレベルにやたらかっちりした女の人がきっちり腰を折って見送ってくれる。


車でスーパーに寄った。食事は冷蔵庫にあるもので十分賄える。私は塩が欲しかった。小さなスーパーには残念ながら料理用の塩しかなかったけれど、その中でも一番高いものを買った。どこの海だか知らないけど声高に言うんだ、きっといい所なんだろうな。

たかが三桁の商品に一万円札を出す私はパートさんからしたらさぞかし恨めしい客だったに違いない。封筒から出すときに一瞬躊躇った。そしてレジ打ちのおばさんは一瞬嫌な顔をした。せめて財布にお金を移しておけばよかったかもしれない。塩はずっしりと重かった。










「もしもし」
「クローム!珍しいね、かけてきてくれるなんて」
「お金、借りたから…」
「借りたなんて…全部あげるから気にしないで使ってよ」


カチリカチリとマウスとキーボードを触る音がする。声が変に近いから多分肩で挟んで電話をしているんだろう。ボスというのは忙しいらしいから。


「………ああ、うん、ほんとだ。あれ?何で一万だけなの?何か買ったの?」
「塩」
「塩?」
「鳩が死んでたから」
「クローム鳩なんか飼ってたんだ」


私は相手が目の前にいるわけでもないのに緩く首を振った。目の前にいるのは今朝の鳩だ。さらさらと上から塩をかけてやる。


「道路で…死んでたの」
「そっか。クロームは優しいね」
「可哀相だと思う?」
「鳩が?」
「うん」


さらさらと上から塩をかけてやる。ぐちゃりとした部分はいくらか乾いていた。ねえ、これ彼のお金で買った塩なの。だからもしも留まるなら彼の背中におぶさりに行ってね。


「忙しい時にごめんなさい。もう切るね」
「こっちこそ慌ただしくてごめん」
「いいの。それからお金は要らないから、入れないで」



彼は電話の向こうで曖昧に笑った。そしてその向こうから誰かの声がして慌てたように別れの挨拶が告げられた。


「あっ、またかけ直すよ」
「いい。今大変でしょ。また用があったらかけるから」


彼は電話の向こうで曖昧に笑った。プツリと電話が切れた。鳩は塩の山に所々を埋めてぐちゃぐちゃに潰れていた。



















20100603.
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