ユニブル































私、綺麗なものが好きなんです。

ユニは私の爪を卵型に整えながら言った。バランスを見ながらじりじりとヤスリで形を作る。せっかちな私には気の遠くなる様な作業を、ユニは緩やかに微笑んで、ちょっと鼻歌を歌ったりなんかして、楽しそうにやる。メロディーはもうすっかり覚えてしまった。ユニの好きな歌はクラシックとかじゃなくて、普通のポップス。でも歌詞をつけて歌ってくれないから曲名も何もわからない。つまんない。

丁寧に卵型に整えた爪を今度は爪磨きで磨く。硝子みたいにきらきらつやつやになるまで。ユニが力を入れすぎるから本当は少し痛いのだ。いたい。言ってみてもゴリゴリと爪を削る音にかき消されて聞こえないふりをユニはする。
そうしてぴかぴかになった爪のその上にはベースコートを塗る。更にユニの好きな色のマニキュアを塗る。いつだって私のリクエストは聞いてもらえない。凝り性のユニはグラデーションにした上に花の絵を描いたり、きらきらの石を乗せたりする。その間は息を止めるくらい真剣だから邪魔するとこわい。もちろん鼻歌はなくなる。心底退屈で無駄な時間だった。せめて私の好きな色を塗ってくれれば良いのに。

そうして綺麗になった爪を恍惚の表情で見つめて、そして言うのだ。



私、綺麗なものが好きなんです。

私の人殺しの手に生える爪を見てそう言う。何が綺麗なものか。削って磨いて隠して上辺だけ取り繕ったこんなものが綺麗なわけがない。
今日は黒のマニキュアにグリーンのラメを重ねたんですよ、夜の海みたいでしょう。
ユニは変わらずにこにこと私の爪を見ている。私の顔も目も見ずに、ただ宝石を見つめる子供の顔で、自分で作ったまがい物の「綺麗なもの」を愛でている。
ああ、いつだってそうだ。ユニは決して私の本当の部分を見てくれない。上辺ばっかり穴があくほど見つめてる。退屈だ。つまんない。こんな人形みたいな扱いをされるのは楽しくない。これも全部私が歩けないから退屈なのかな。この両足が自由ならどこへだって逃げ出せるのに。



「ユニ」
「はい、なんですか」
「ユニは私が綺麗じゃなくなったら、嫌いになる?」
「まさか、そんなことあるわけないでしょう」

よかった、と続けようとして、先にユニが言った言葉に私はどうしようもなく納得してしまって、そして何を勘違いしていたんだろうと恥ずかしくなって、ここから急いで逃げ出したくなった。けれども勿論この足は動いてくれなかった。








「あなたはあなたの爪以外すべて醜いんですから、元から大嫌いです」

ユニは恐ろしい程いつもと変わらない笑顔だった。













20130609.
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