山京


























可愛いフリをするのは昔から得意だった。好きなフリをするのも、天然のフリをするのも、みんな幼稚園の劇みたいに簡単だった。
わあ、ありがとう!これ大好きなの!うれしい!
可愛らしくにこにこ笑いながら言うだけで、ケーキだって人形だって服だって鞄だって、とにかくなんでも手に入った。ちょっと物憂げな顔をして誰其が好きだと呟くだけで周りもすっかりその気になってくれるから、人の心だって私のものだった。笑ってしまうくらい私には不足したものがなくて、本当に恵まれてるなあ幸せだなあと思いながら、世の中の不幸な人を心の中で笑うのが常だった。


なんか、笹川ってさ、気持ち悪ィ


だから彼に、山本くんにそう言われた時は頭を鈍器かなにかで力一杯殴られた気がした。いや、殴られたことなんて人生で一度もないけれど。
私からすれば山本くんの方がよっぽど気持ち悪かった。誰にでもにこにこ笑って、優しくて、明るくて、クラスどころか彼の名前を知ってるみんなに好かれて、見た目も爽やかなスポーツ少年で、そしてその何もかもが嘘くさいのだ。笑顔の裏で何考えてるかわかんないような感じの。今だって、山本くんはいつも通り笑いながら私に気持ち悪いと言った。私は山本くんが嫌いだった。


どうして、かな。私なにか嫌なことしちゃった…?


目に涙を溜めて上目遣い。男子なんてみんなみんなこれで私を許してくれる。作ったような沈んだ声と鬱陶しい喋り方。私は馬鹿みたいだと思うけど、男の子はこういうのが好きなんだって知ってる。女の子の演技も見抜けないで、守ってあげたくなるような子がいい、とか言っちゃってるのだ。



「そういうの。笹川ってさあ、誰にでもにこにこして、優しくて、明るくて、みんなに好かれて、見た目も可愛くて、でもなんか笑顔の裏で人を馬鹿にして生きてそう」



驚いた。山本くんは、私が山本くんに対して思ってることとほとんど同じことを私に向けて言った。そこで私はようやくどうして今まで山本くんが嫌いだったかわかった。同族嫌悪、というやつだった。私と山本くんはよく似ているのだ。みんなが好きそうな女の子男の子を作って作って生きてきた人だった。
可愛いフリをするのは昔から得意だった。好きなフリをするのも、天然のフリをするのも、みんな幼稚園の劇みたいに簡単だった。
楽に生きられるけど、時々しんどくなった。私は息を吐ける場所が欲しかった。山本くん。なるほどうってつけじゃないか。


「ねぇ、山本くん」
「んー?」
「私、山本くんのこと好きになっちゃった。つき合ってくれないかな」
「やだ」


ああ、そう、こんな感じ。みんなに好かれる女の子のフリをしておきながら、私は私のことを絶対に好きにならない人が欲しかった。

























20110730.
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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